刑事事件で逮捕されないためには何が必要? 逮捕される人とされない人の違いとは

2021年03月11日
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刑事事件で逮捕されないためには何が必要? 逮捕される人とされない人の違いとは

日々、多くの事件が報道されている中で、同じような犯罪を行っても、逮捕される事例とそうでない事例があることに疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。

たとえば、東京の池袋で87歳の男性が運転する車が暴走し、横断歩道を渡っていたふたりが死亡したほか、10人が負傷したという事故がありました。

この時、加害者の男性が逮捕されず、その2日後に神戸市で起きた、市営バスが歩行者の列に突っ込んだ事故では、運転手が現行犯逮捕されました。直近で起こった2つの事件を比べて、「池袋の事故の加害者がなぜ逮捕されないのか」と世間では批判が起こったことを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。

このように、同じような死亡事故を起こしながら、一方は逮捕されて、他方は逮捕されないという違いが生じています。なぜ、逮捕される場合と逮捕されない場合があるのでしょうか。今回は、これらの違いや逮捕された場合の対応方法について解説していきます。

1、罪を犯しても逮捕されないことがあるのはなぜか?

  1. (1)認知件数と検挙件数

    大阪府警の「令和元年中の犯罪統計」(確定値)によると、犯罪の認知件数は、84,672件で、検挙件数は、22,074件となっています。認知件数とは、警察などの捜査機関が犯罪の発生を認知した件数です。検挙件数とは、認知した犯罪について被疑者を特定し、取り調べ等を実施した件数です。

    これを見て分かるとおり、犯罪として認知されたとしても検挙されるのは、2割弱です。実際に捜査したが犯人を特定できないという場合や、犯人と推測できる人物は浮上したが、決定的な証拠がなく逮捕できないという場合もあるでしょう。

  2. (2)逮捕の要件

    一般的な感覚からすると、犯罪を行った場合、逮捕されるのは当然と思うかもしれません。しかし逮捕は、人の身体の自由を奪う重大な人権侵害を伴う手続きであるため、警察によってむやみに逮捕されれば、不当な人権侵害にもつながるおそれもあります。

    そのため、逮捕をするには、法律に定められた厳格な要件を満たす必要があります。まず、逮捕には3つの種類があり、それぞれについて満たす要件が異なりますので、順に説明します。

    ●通常逮捕
    通常逮捕とは、裁判官が発布する逮捕状に基づき被疑者を逮捕する場合をいいます。いわゆる逮捕といえば、通常逮捕を意味します。憲法33条では、現行犯逮捕の場合を除いては、令状がなければ逮捕されないと規定しており、通常逮捕はかかる憲法の規定にのっとった手続類型といえます

    逮捕状による逮捕は刑事訴訟法199条に規定されており、その要件としては①逮捕の理由と②逮捕の必要性が挙げられます。

    1. ①逮捕の理由(被疑者が犯人である相当程度の証拠)
    2. ②逮捕の必要性(罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ)


    ①逮捕の理由とは、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由をいい、被疑者が犯人であることを裏付ける相当程度の証拠もなければ、逮捕状による逮捕を実行することはできません。

    次に、②逮捕の必要性ですが、罪障を隠滅するおそれがなく、逃亡のおそれもなければあえて逮捕の必要性はありませんので、これらの有無について判断することとなります。なお、②逮捕の必要性の要件は刑事訴訟法199条に明記されておりませんが、この要件も必要であることは実務上認められています。

    ●現行犯逮捕
    現行犯逮捕とは、現に犯罪を実行中である場合や、犯罪を行い終わった直後の者を逮捕する場合をいいます(刑事訴訟法212条)。

    現行犯逮捕をする場合は裁判官が発布する令状は不要とされています。これは、目の前で犯罪が行われた場合にその犯人を令状なしに逮捕したとしても、誤認逮捕のおそれはすくなく、人権侵害のおそれがないですし、また、現行犯逮捕の機会を逃すとその後いつ逮捕できるか分からないという必要性の観点から認められています。

    憲法第33条に「現行犯として逮捕される場合を除いては」と規定されているのは、上記のような理由を踏まえてのことです。

    また、現行犯以外にも、犯罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるもの(準現行犯)についても、現行犯逮捕として逮捕することが認められています。

    準現行犯は刑事訴訟法212条2項各号で4つに類型化されており、

    1. ①犯人として追われていたり呼びかけられている者
    2. ②犯罪によって得た財産や犯罪に利用した道具、凶器を所持している者
    3. ③身体や服に犯罪の顕著な痕跡がある者(たとえば、喧嘩騒乱で服に血のりがついている場合)
    4. ④声を掛けたら逃走した者


    という場合で、犯罪行為から時間がたっていないと判断できる時は、準現行犯として逮捕することが認められています。

    ●緊急逮捕
    緊急逮捕とは、殺人など一定の重大な犯罪に関し、罪を犯したと疑うことができる十分な証拠がある場合で、急速を要する場合に、逮捕状の発付を得ずに逮捕することをいいます
    (刑事訴訟法210条)。

    目の前に重大犯罪を行ったと思われる犯人がいるのに、捜査機関が裁判官に対し逮捕状許諾請求をしているのでは逃げられるため、通常逮捕の例外として認められています。なお、緊急逮捕の場合はその後、直ちに正式な逮捕状を求める手続きをしなければならず、逮捕状を請求しても認められなかった場合には、直ちに被疑者を釈放する必要があります。

    緊急逮捕の要件としては、

    1. ①被疑事実が重大であること(死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)
    2. ②被疑者が犯人であることを裏付ける十分な証拠があること(通常逮捕の場合よりも強い証拠を求めています)
    3. ③逮捕の緊急性があること


    が挙げられます。

    このように「逮捕」といっても3種類あり、それぞれに必要な要件が異なります。
    また、以上はあくまでも逮捕が可能となる条件であり、要件を満たした場合でも捜査機関が必ず逮捕しなければならない、ということはありません。

2、逮捕と書類送検の違い

逮捕された場合、具体的には手錠を掛けられ、車両などで強制的に留置施設のある警察署に連行されることになります。その後、警察からの取り調べを受けます。

一方で、書類送検とは、身体拘束を受けていない被疑者の事件記録や捜査資料を、検察に送る手続きです。

「逮捕」は被疑者の身体を拘束する手続きであるのに対し、「書類送検」は、被疑者の事件の処理を、警察から検察庁に移す手続きであるため、本来であれば適用の場面が違う言葉です。

ただ、逮捕された場合には、48時間以内に釈放されるか、検察に身柄も含めて「送検」されるか、どちらかの手続きが行われるので、身体拘束のない「書類送検」とはよく比較されます。

3、逮捕されなくても在宅事件となる可能性がある

これまで説明してきたとおり、罪を犯したとしても、必ずしも逮捕されるとは限りません。捜査機関が犯罪を認知したけれども犯人を特定できない場合や、犯人を特定できたけれども逮捕する必要がない場合には逮捕されないのです。

逮捕する必要がない場合とは、罪証隠滅のおそれがなく、かつ逃亡のおそれがない場合です。この他に、犯罪の軽重も逮捕の必要性の判断に影響を与えます。交通事故を起こしたしまった場合や違法ダウンロード行為で著作権法違反に問われた場合などは逮捕されないことが多く、逆に殺人罪などの凶悪犯については逮捕されることが多いといえます。

ただし、逮捕されなくても嫌疑がある以上、捜査が打ち切られるということではないので注意が必要です。在宅事件として、被疑者の身体を拘束しないまま捜査する「在宅捜査」が行われるからです。

在宅事件の場合、警察や検察から出頭要請があり、任意の取り調べを受けることになります。

警察の捜査が終わり、証拠が十分にそろえば、書類送検ということになります。

検察でも逮捕・勾留の必要がないと判断されれば、在宅のまま捜査が行われ、起訴するべきと判断されれば、在宅起訴され刑事裁判になります。

4、逮捕後の流れ

警察に逮捕され他場合、その後48時間を限度として、身体拘束がなされて取り調べを受けた後、事件は検察に送致されます(ここで嫌疑が晴れれば、釈放されることもあります)。

検察に送致された後は、24時間以内に起訴するか釈放するかを決めなければなりませんが、その判断ができない場合も多く、10日間の勾留(身体拘束のことです)がされることが通常です。さらに必要な場合には、追加で最大10日間の勾留延長(つまり勾留期間は合計で20日となります)がなされる場合もあります。

この期間内に検察は起訴・不起訴を判断します。

不起訴であれば、即刻釈放です。
しかし、起訴されれば刑事裁判を受けることになります。なお、起訴後は、裁判から逃げられないよう勾留されることが通常です。

起訴された事件の、99.9%が有罪判決を受けており、弁護活動としては何よりまず起訴されないことを目的とします。また、起訴された場合には、執行猶予が付くよう、最善を尽くします。

5、逮捕されないためには早期に弁護士へ相談を

罪を犯してしまい、警察から任意の事情聴取を受けている場合、いつ逮捕されてもおかしくない状態でしょう。

この時、逮捕されないためには、被害者に誠実に謝罪し、示談することが大切です。特に詐欺罪など金銭をだまし取ったような場合、被害弁償することが大変重要でしょう。被害届が提出されている場合には、示談をしたうえで被害届を取り下げて貰う必要があります。

しかし、被害者の立場としては、「加害者の顔も見たくない」ということが多く、加害者が被害者に直接会って話をすることは実際のところ難しいです。

そのような場合に示談を成立させるためには、弁護士に依頼するしかありません。できるだけ早い段階で弁護士に依頼すれば、交渉の時間が得られるので示談成立の可能性が高まります。

6、まとめ

今回は、逮捕される場合と逮捕されない場合があるのはなぜか、について解説してきました。本文で説明したとおり、罪を犯してしまった場合でも、必ず逮捕、というわけではありません。

ただし、逮捕されない可能性を高めるには、被害者に示談交渉をし、弁償をすることがまずは重要です。被害届がすでにある場合には取り下げてもらうよう、交渉する必要があります。

そのような交渉は弁護士に任せるのが賢明です。

警察から任意の事情聴取を受けていて、逮捕されるか心配という場合には、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています