銃刀法違反の初犯の刑罰とは?
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銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)という法律は、一般の方にはあまり縁がないと思われるかもしれませんが、令和2年には大阪府内で225人(全国では4819人)が銃刀法違反で検挙されています。銃刀法は日常的に使うような刃物も規制対象としており、一般の方にとっても意外と身近な法律といえます。
刃物を携帯して検挙された場合、初犯(過去に刑罰を受けたことがない方)であれば、比較的軽い処分で済むケースも少なくありません。しかし、早期に適切な弁護活動がなされるか否かで、大きく明暗が分かれることもあります。また、ご家族の協力も大いに助けとなります。
このコラムでは、刃物を携帯して銃刀法で検挙された場合の対処法について、
• どのような刃物が規制されるのか、また、どのような刑罰になるのか
• 逮捕されるとどのような手続きになるのか
• 早期の弁護活動により期待できること
• ご家族が協力できること
という流れで弁護士が解説します。
(出典:警察庁統計)
1、どのような刃物を所持することが規制される? 刑罰の重さは?
銃刀法ではどのような刃物が規制され、違反するとどのような処罰を受けるのでしょうか。
銃刀法の規制内容や罰則、規制される行為、予想される刑罰や処分について順に解説します。
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(1)銃刀法の規制内容と罰則
銃刀法は、人を殺傷する用途で製造される拳銃などの「銃砲」や日本刀などの「刀剣類」は、所定の許可や登録を受けた場合を除いて、所持そのものを禁止しています。
日用品でもある包丁などの刃物は、銃刀法で規定する「刀剣類」には該当しません。但し、「刀剣類」以外の刃物についても銃刀法は規制しており、包丁などは、自宅など使用場所で所持することは問題ありませんが、正当な理由なく外に持ち出すと処罰されることがあります(銃刀法22条。刃体の長さが6cmを超える刃物の携帯の禁止規定)。
拳銃など銃器の所持による銃刀法違反事件は時々ニュースにもなりますが、検挙事案の大半は刃物の携帯です。
包丁などの刃物は、次のように刃の部分の長さや形状で規制対象と罰則が定められています。種類 刃の長さ 罰則 包丁、ツールナイフなど 6cm以上 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 はさみ、折りたたみ式ナイフ、くだものナイフ 6cm以上
(危険性が低い形状で刃の長さが8cm以下のものは対象外)
銃刀法で規制されない小型の刃物であっても、隠して携帯していた場合は、軽犯罪法違反の罪で検挙、処罰される可能性があります(軽犯罪法1条2号)。
軽犯罪法の罰則は、拘留(30日未満刑事施設に収容される刑罰)または科料(1万円未満の納付が命じられる刑罰)です。
銃刀法に比べると軽い罰則ですが、小型の刃物であってもそれを正当な理由なく隠し持っていれば検挙される可能性があることは知っておいたほうがいいでしょう。 -
(2)銃刀法で規制される行為
「刀剣類」以外の包丁などの刃物は、外出する際に持ち歩いたり車に積んでいたりする「携帯」行為が規制の対象となっています。
ただし、業務として必要なケースや正当な理由をもって携帯する場合は処罰されません。
たとえば、建設業の方が仕事で使う刃物を携帯して現場まで往復する行為は、業務として携帯しているので、処罰されません。
また、包丁などの刃物を購入して持ち帰る道中や、キャンプ用品の刃物を携帯してキャンプ場まで往復する道中も、正当な理由をもって携帯していると考えられます。
一方で、「護身用のため」とか「持ち歩いていると便利」といった理由では、正当な理由として携帯しているとは言い難いです。 -
(3)どのような刑罰・処分になる?
刃物の携帯に関する銃刀法違反の事案では、
- 刃物を携帯していた目的や経緯
- 前科や前歴の有無
の2点が刑罰や処分を決めるに当たっての判断要素となります。
前科とは過去に懲役刑(執行猶予を含む)や罰金刑など刑罰を科された履歴のことをいい、前歴とは、警察沙汰になって被疑者として捜査対象になった履歴のことをいいます。但し、前科も前歴も法律で定義が定まった用語ではありません。
なお、前科がない状態で罪を犯した場合は「初犯」として扱われます(「初犯」も法律で定義が定まった用語ではありません。)。
刃物を携帯した場合の罰則は、「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」であることから、刑罰や処分は次のいずれかです。①懲役刑または罰金刑
刑事裁判など裁判所の手続きによって有罪と認定された場合の刑罰であり、いずれも「前科」として記録が残ります。
②不起訴処分
銃刀法に違反するとしても刑罰を科すまでもない、または銃刀法の成立自体が根拠不十分と検察官が判断した場合になされる処分です。刑に処せられることはないため前科にはなりませんが、捜査対象になったという記録が「前歴」として残ります。
刃物を携帯していた目的や経緯がそれほど悪質ではない、初犯であるという条件であれば、不起訴処分または起訴されても罰金刑となるケースがほとんどでしょう。
2、逮捕された後の流れ
銃刀法違反で逮捕されてしまった場合の刑事手続の流れについて解説します。
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(1)逮捕
銃刀法違反事件は、職務質問で警察官に刃物の携帯を現認されて検挙されるケースがほとんどです。
刃物の携帯で逮捕までされるケースはそれほど多くはありません。ただし、刃物を携帯していた目的や経緯についてあいまいな説明をしたり、職務質問に抵抗したりすると、そのまま現行犯逮捕される可能性が高くなります。
その場合には、警察署の留置場に収容され、弁護士以外と面会することはできなくなります。
逮捕による身柄拘束の時間は48時間ですが、検察官が勾留請求するまでの24時間を合わせると最長72時間となります。 -
(2)送検
銃刀法違反で警察に検挙されると、事件は記録一式とともに検察に送られます(送検)。
逮捕されて送検されると、引き続き身柄拘束をする必要があるか検察官が判断します。
身体拘束の必要があると判断されると、検察官は送検から24時間以内に裁判官へ勾留請求をします。勾留請求とは、裁判官に対して身体拘束を求める手続の事です。 -
(3)勾留
裁判官が勾留を認めると、最長で20日間の身柄拘束が続き、留置場に収容されたままとなります。身体拘束を受けている間、捜査機関による取り調べもなされます。
勾留の満期までに、検察官は刑罰を科す必要があるか、つまり起訴するか、それとも不起訴処分とするかを判断します。 -
(4)起訴または不起訴処分
検察官が刑事裁判により刑罰を科す必要があると判断すれば起訴されます。刑事事件全体でみると起訴される割合は約32%です。
勾留されていて不起訴処分となった場合には、身体拘束は解かれて釈放されます。 -
(5)刑事裁判
起訴された場合、勾留されたまま刑事裁判を受けるパターンと、勾留満期までに釈放されて身体の自由が認められる状態で刑事裁判を受けるパターン(在宅起訴などといわれます)があります。
刑事裁判で有罪になると、懲役刑や罰金刑などの刑が言い渡されます。
なお、事件の内容に争いが無く、刑罰として罰金刑程度が相当と考えられる事件は、公開の法廷で刑事裁判を開廷するのではなく、書面審理により事務的手続的に罰金額が決められる略式裁判手続となることもあります。略式裁判手続は、公開の法廷が開かれない事務的な手続きで罰金刑が下されますが、刑事裁判の判決であることには違いなく、行為者は前科者として扱われます。
3、早期の弁護活動により不起訴処分も期待できる
前章で解説した事件の流れは、警察や検察により進められる捜査の手続の流れです。
一方、捜査が行われている期間は弁護活動にとっても大変重要な期間となります。
この期間の弁護活動が重要な理由と、早期の弁護活動により期待できることを解説します。
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(1)不起訴処分と罰金刑・懲役刑とでは大きな差がある
銃刀法で検挙されたとしても、初犯であれば不起訴処分や罰金刑になるケースがほとんどです。
罰金を払えば済むのであれば、わざわざ弁護士に刑事弁護を依頼しなくてもいいと考えられるかもしれません。しかし、そのお考えは大きなリスクがあります。
罰金刑とはいえ刑罰を受けると前科者として扱われ、社会生活上の不利益が生じえます。社会生活上の不利益とは、勤務先の就業規則に触れてしまい懲戒処分を受けるなどとったことです。
また、将来罪を犯した場合に2回目ということで重く処罰される可能性があります。
たとえば再び銃刀法で検挙されると、前回よりも軽い処分となることはまず期待できません。罰金前科がある場合、前回よりも高額の罰金刑や重い懲役刑を科されるのが一般的です。
重い刑が予想されるということになれば、逮捕・勾留される可能性も高くなってしまいます。
銃刀法違反は、捜査段階の弁護活動が功を奏すれば、不起訴処分となることが期待できる事件なので、罰金刑など前科がつく刑罰はできるだけ避け、不起訴処分を受けるのが賢明です。 -
(2)検挙・逮捕後の弁護活動により期待できること
銃刀法違反の事件では、刃物を携帯していた目的や経緯についてあいまいな説明をしないことが重要です。また、逮捕されている場合は早期の身柄解放が重要です。
職務質問などで刃物の携帯を警察官にとがめられると、気が動転してしまい、刃物を携帯していた目的や経緯についてあいまいな説明をしてしまうかもしれません。
また、どのような場合に刃物の携帯が認められるのか、一般の方には法律的な知識がないのもやむをえないことであり、捜査官に自白を誤導・誘導されてしまう可能性も無きにしもありません。
あなたが検挙された場合、まず弁護士から銃刀法に関する説明や取り調べに対するアドバイスを受けるべきでしょう。特に検挙直後において有効です。
刃物を携帯していた目的や経緯について一貫した供述を維持していれば、証拠を隠滅する余地などほとんど考えられないことから、逮捕、勾留されている場合は早期の身柄解放も期待できます。
逮捕されてしまった場合、最長72時間は弁護士以外の者と連絡が一切取れなくなってしまいます。
この間に不用意な供述をして不利益を受けることがないよう、できるだけ早期に弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
4、ご家族の協力も大きなポイントに
銃刀法違反事件は、再び同じような罪を繰り返さないことを検察官など捜査機関に理解してもらうことが大きなポイントとなります。
キャンプ用品や仕事道具の刃物を車に積んだままにしてしまうことは不注意でも起こりえることです。
また、護身用に刃物を持ち歩いていたのであれば、そのような習慣を改めてもらう必要もあります。
そのため、ご本人がより一層注意するということに加えて、ご家族も刃物の管理に注意を払い指導監督することが、再犯防止策として大きなポイントとなります。
検察官が起訴、不起訴の判断をするまでに、弁護士を通じてご家族の誓約書を検察官へ提出することができれば、有利な事情として考慮してもらえることが期待できます。
なお、ご本人が逮捕された場合でも、配偶者や直系の親族(親子、祖父母など)、兄弟姉妹などが弁護士に弁護を依頼することも可能です。
5、まとめ
刃物の携帯により検挙された銃刀法違反の事案は、初犯であれば、不起訴処分か罰金刑になるケースがほとんどですが、不起訴処分と罰金刑とでは大きな違いがあります。
できるだけ早期に弁護士に弁護を依頼し、取り調べに対するアドバイスを受けることや再犯防止策を講じることをおすすめします。
あなたやあなたの家族が検挙、逮捕されてしまったら、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスにぜひご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています