どこからが誹謗中傷で訴えられる行為となるのか。弁護士が解説

2023年01月16日
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どこからが誹謗中傷で訴えられる行為となるのか。弁護士が解説

令和4年3月、元府知事が現職議員と新聞社に損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が開かれました。元知事は、前年に新聞社のサイトで配信された記事内で、同議員が元府知事のことを「気に入らない記者は袋だたきにする」と発言したことが名誉毀損にあたると訴えています。

多くのメディアや府民が行方を注目している問題ですが、いったい、どこからが名誉毀損にあたるのかは気になるところです。インターネットにおける「誹謗中傷」が大きな社会問題になっているなかで、どこからが違法なのか、どのような行為が処罰されるのかという疑問を感じている方は多いでしょう。

本コラムでは「誹謗中傷」で成立する犯罪の種類や事例を挙げながら、違法となるケースの判断基準などを確認していきます。

1、「誹謗中傷」で成立する犯罪とは?

ネット上の個人攻撃が問題となる事例が一般の方にも広く知られるようになったことで「誹謗中傷」という言葉を見聞きする機会が増えました。

しかし、刑法をはじめとして、どの法律を見ても「誹謗中傷は罰する」とか「誹謗中傷罪」といった記載は存在しません。
行為・態様に照らして、刑法で定められている犯罪が適用されます。

誹謗中傷にあたる行為に適用される犯罪を挙げていきましょう。

  1. (1)名誉毀損(きそん)罪

    公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損すると、刑法第230条の「名誉毀損罪」になります。
    ある事柄を指摘して、人の社会的評価をおとしめる行為を罰する犯罪で、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科せられます

  2. (2)侮辱罪

    事実摘示せずとも、公然と人を侮辱すれば刑法第231条の「侮辱罪」です。
    具体的な事柄を指摘していないとしても、大勢の人に向けて他人を侮辱する言葉を投げかければ本罪が成立します
    法定刑は拘留または科料でしたが、相次ぐ誹謗中傷への対策として、令和4年3月に厳罰化の改正法案が閣議決定しました。
    そして、令和4年6月13日、「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)が成立し、そのうち、侮辱罪の法定刑の引上げに係る規定は、同年7月7日に施行されました。本改正により、「1年以下の懲役もしくは禁錮」と「30万以下の罰金」が追加されました

  3. (3)脅迫罪

    他人の生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える内容を告げると、刑法第222条の「脅迫罪」が成立します。

    脅しの方法に決まりはないので、本人に対して口頭・電話・メールなどのメッセージで告げたときだけでなく、SNSで危害を暗示するような内容を発信しても本罪が成立するおそれがあります

    法定刑は、2年以下の懲役、または30万円以下の罰金です。

  4. (4)偽計業務妨害罪

    虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて他人の業務を妨害する行為は、刑法第233条の「偽計業務妨害罪」に問われます。

    デマを流して会社や店舗などの円滑な営業を妨害する行為が典型例で、3年以下の懲役、または50万円以下の罰金が科せられます

  5. (5)威力業務妨害罪

    威力を用いて他人の業務を妨害する行為は、刑法第234条の「威力業務妨害罪」によって処罰されます。
    犯罪予告などは本罪の処罰対象です
    法定刑は偽計業務妨害罪と同様、3年以下の懲役、または50万円以下の罰金が科せられます。

2、名誉毀損罪・侮辱罪の実例と訴えられる基準

「誹謗中傷」という用語から罪名を思い浮かべるとすれば、多くの方がまず「名誉毀損罪」や「侮辱罪」を挙げるでしょう。
名誉毀損罪や侮辱罪が適用された実例を見ながら、どのような行為が誹謗中傷となるのかを確認していきます。

  1. (1)名誉毀損罪の実例

    【福岡地裁 令和2年12月10日 令和2(わ)165】
    あおり運転で大事故を誘発させた犯人について、意見が投稿されている掲示板サイトで、ある建設会社が犯人の親族であるという疑いに同調して「これ?違うかな」という文章とともに無関係な会社のホームページのURLを投稿した事例です。

    この事例では「これ?違うかな」という文章とホームページのURLを投稿する行為が「事実の摘示」にあたるのかが争点になりました。

    被告人側は、名誉毀損罪が成立しないので無罪である、と主張しましたが、裁判所は直前の投稿として併せ読むことが通常想定され、実際にそのように理解したほかのユーザーによる投稿も存在したことから、罰金30万円の有罪判決を言い渡しています。

    この事例をみると、具体的な内容ではなく、ほかの情報と併せて読み解かないと意味をなさないものでも「事実の摘示」にあたり、名誉毀損罪が成立することがわかるでしょう

  2. (2)侮辱罪の実例

    令和2年中に侮辱罪で有罪判決を受けた事例をいくつかピックアップしてみましょう。

    • SNSの配信動画で「お金はない、体型は豚、顔はブス、体は臭そうってやばいなお前」などと放言した……科料9000円
    • インターネットの口コミ掲示板に「詐欺不動産」「対応が悪い不動産屋、頭の悪い詐欺師みたいな人。」などと投稿した……科料9000円
    • 集合住宅において、3名を相手に特定の人物について「ちまたで流行りの発達障害、だから人とのコミュニケーションがちょっとできない」などと言った……科料9000円
    • 商業施設において、ほかの買い物客がいる前で視覚障害者に対して「周りが見えんのやったらうろうろするな」と大声でののしった……科料9900円


    (出典・参考資料:「侮辱罪の事例集」(法務省ウェブサイト)

    ここでは4つの事例を挙げましたが、SNS、インターネット掲示板、周辺住民との雑談、大勢の人がいる商業施設というふうにシチュエーションが違っています。
    文章による投稿、少人数での会話、大勢のなかで罵倒と、それぞれ方法が異なっている点にも注目するべきです

    つまり、侮辱的な言葉・表現を放てばあらゆるシチュエーションのなかで侮辱罪が成立する危険があるといえます。

3、脅迫罪の実例と訴えられる基準

令和3年10月、会員制交流サイトで知り合った女子中学生に「写真を売って」と要求して裸の画像を撮影・送信させたうえで、写真の代金を要求されると画像をSNSでさらすと、脅した大阪市内の男が逮捕される事件がありました。

これは、被害者の自由や名誉に対し、危害を加える旨を告げる行為であり、脅迫罪が成立するのは当然です。

誹謗中傷のなかには、SNSのメッセージ機能や個別のメールアドレスに文章を送信する形態のものも存在します

名誉毀損罪や侮辱罪のように「大勢に知られた」あるいは「大勢に知られるかもしれない」といった状態は求められません

4、偽計業務妨害罪・威力業務妨害の実例と訴えられる基準

誹謗中傷が「偽計業務妨害罪」や「威力業務妨害罪」にあたるケースもあるので注意が必要です。

  1. (1)偽計業務妨害罪の実例

    平成28年4月に大規模な地震が発生した際に、SNS上で、地震で動物園からライオンが放たれた、というデマを投稿した会社員の男が、偽計業務妨害罪の疑いで逮捕されました。

    偽計とは、人をだまし、誘惑し、勘違いを生じさせることをいいます

    もちろん、地震の影響で凶暴な動物が園外に逃亡した事実はありませんでしたが、動物園には問い合わせの電話が殺到し、職員はその対応に追われる事態になりました。
    問い合わせや苦情が殺到することによって動物園は通常の業務に支障をきたしたことになるので、偽計業務妨害罪の成立は妨げられません。

  2. (2)威力業務妨害罪の実例

    令和4年1月、大阪府のコロナ協力金コールセンターに、ガソリンをまき大勢の人を道連れにする、などと電話をかけた男が、威力業務妨害罪の疑いで逮捕されました。

    威力業務妨害罪でいう「威力」とは、暴力のような有形力だけでなく、相手の意思を制圧するに足りる力を使用することをいいます

    自分では正当な理由があると思っていたり、いたずらのつもりでも、相手の自由意思を制圧し、円滑な業務遂行を阻害すると威力業務妨害罪の処罰対象です。

5、まとめ

「誹謗中傷」と呼ばれる行為は、法律に照らすと名誉毀損罪や侮辱罪、脅迫罪、偽計業務妨害罪にあたり、それぞれの法律によって厳しく処罰されます。

状況次第では警察が逮捕に踏み切ることもあるので、日常生活から長期にわたって隔離されてしまえば、事件後の社会復帰も簡単ではないでしょう。
また、誹謗中傷にあたるケースでは、相手方から精神的苦痛への慰謝料や実際に生じた損害に対して賠償を求められることがあります。

なんとかして円満に解決したいと望んでいても、金額の折り合いがつかず交渉が前進しないといった場面があるかもしれません。

誹謗中傷トラブルの解決を望むなら、弁護士のサポートが必須です。

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