「かけ子」で逮捕されたらどのような罪に問われる?
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大阪府警が公表している資料によりますと、東大阪市における令和2年の特殊詐欺認知件数は25件でした。令和2年における、大阪府での特殊詐欺の件数は、1108件であり、前年よりも701件も減少しています。しかし、特殊詐欺が世間に広く認知されてきている状況でも、毎年一定数の被害者が出ているということがわかります。
オレオレ詐欺などの特殊詐欺については、複数の人物によって組織的に行われているため、全体像がつかみにくい犯罪であるといわれています。末端の役割には、未成年者や学生などがアルバイト感覚で気軽に請け負っているケースも多いようです。もっとも、特殊詐欺については、近年厳罰化の傾向にありますので、軽い気持ちで始めただけでも実刑判決となる可能性が相当あります。特殊詐欺だったと知らなかった、分からなかったでは済まされません。
今回は、特殊詐欺のうち「かけ子」で逮捕された場合に問われる罪について、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。
1、かけ子とは?
特殊詐欺における「かけ子」とはどのような役割をいうのでしょうか。以下では、特殊詐欺についての基礎知識について説明します。
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(1)特殊詐欺とは
特殊詐欺とは、面識のない不特定多数者に対し、電話をかけてあざむき、現金を振り込ませることをいいます。
このような特殊詐欺の類型としては、警視庁は以下のとおり分類しています。
① オレオレ詐欺
親族などと名乗り、借金の返済や交通事故の示談金、会社の横領金の穴埋めを名目として、現金を口座に振り込ませる手口の詐欺です。
② 預貯金詐欺
金融機関の職員を名乗り、「預貯金口座が不正に利用されているため、キャッシュカードの交換が必要です」などと言って、キャッシュカードをだまし取る手口の詐欺です。
③ 架空料金請求詐欺
有料サイトなどの利用実態がないにもかかわらず、架空の料金をでっちあげ、「未払いの料金があり裁判を起こしました。裁判の取り下げを希望する方は、至急お支払いください」といった内容のメールやハガキを送り、金銭などをだまし取る手口です。
④ 還付金詐欺
役所の職員などを名乗り、医療費や税金などの還付金返還の手続きを装って、被害者にATMを操作させ、口座に入金させる手口です。
⑤ 融資保証金詐欺
実際に融資をするつもりがないにもかかわらず、融資を受けるにあたっての保証金名目で被害者から現金をだまし取る手口です。
⑥ 金融商品詐欺
実際には価値がない有価証券や架空の有価証券について、電話やハガキなどによって購入すれば利益が得られるものと被害者に信じ込ませて、高額な価額で有価証券などを売却する手口です。
⑦ ギャンブル詐欺
不特定多数の人に対して、メールやハガキなどを送り、パチンコ攻略法などの虚偽の情報を伝える対価として、会員登録料や情報料をだまし取る手口です。
⑧ 交際あっせん詐欺
不特定多数の者に対し女性を紹介する旨のメールなどを送り、申し込んできた人に対し会員登録料や情報料として金銭をだまし取る手口です。
⑨ キャッシュカード詐欺盗
警察官や大手百貨店などの職員を名乗り、カードが不正利用されているなどの名目で、キャッシュカードを提示させすり替える手口です。 -
(2)特殊詐欺における役割分担
特殊詐欺については、複数の者がさまざまな役割を演じることによって被害者をだましていきます。特殊詐欺における代表的な役割としては、以下のものがあります。
① かけ子
かけ子とは、被害者に電話をして、言葉巧みにだます役割のことをいいます。かけ子は、実際に被害者をだます詐欺行為をしていますので、特殊詐欺の役割の中でも中心的な役割を担っています。そのため、「出し子」や「受け子」に比べて重く処罰される可能性があります。
② 出し子
出し子とは、被害者から犯行グループの預貯金口座に振り込まれた金銭を引き出す役割のことをいいます。出し子は、ATMの防犯カメラなどによって身元が明らかになるリスクがあるため、特殊詐欺のグループの中でも末端の役割であるとされています。
出し子については、被害者と直接接触していませんので、被害者に対する詐欺罪は成立しにくいですが、預金の占有者であるところの金融機関に対する窃盗罪が成立します。
③ 受け子
受け子とは、だまされた被害者から直接金銭を受け取る役割のことをいいます。受け子は、詐欺グループから金銭の受け取りだけを指示されているので、詐欺の実態を把握していないことも多く、アルバイト感覚で手を染めてしまう若者も多いといわれています。しかし、刑事事件の実務では、詐欺の実態を把握していなかった、分からなかったでは済まされないことがほとんどです。受け子は実刑判決を受ける可能性が高いです。
受け子については、被害者がだまされていることを知りながら金銭を受け取ったときには、詐欺罪が成立する可能性があります。
2、かけ子の手口や逮捕された事例
特殊詐欺の役割のひとつとして「かけ子」というものがありますが、かけ子はどのような手口で被害者をだましているのでしょうか。また、実際にかけ子が逮捕された事例としてはどのようなものがあるのでしょうか。
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(1)かけ子の手口
かけ子は、不特定多数の者に電話をして、さまざまな理由をつけて被害者をだまそうとしてきます。特殊詐欺のうちオレオレ詐欺の代表的な手口としては、以下のようなものがあります。
「女性を妊娠させてしまった。中絶費用が必要。」
「交通事故を起こした。被害者に示談金を支払わなければならない。」
「友人の借金の保証人になってしまった。」
などとトラブルを口実にして、至急お金が必要であるということを被害者に信じ込ませます。そして、「自分は行けなくなったので、代理の人を行かせる」と言い、現金受け取り役の受け子を被害者宅に行かせます。被害者としては、家族が大変なことになっているという焦りから、真偽を確かめることなく、犯人の言うとおりにお金を振り込んでしまうのです。
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(2)かけ子が逮捕された事例
かけ子が逮捕された実際の事例としては、以下のものがありました。
① オレオレ詐欺の事例
令和2年9月に高齢の女性から現金150万円をだまし取ろうとして、埼玉県在住の男性3人が詐欺未遂容疑で逮捕されました。容疑者の男性らは、被害女性に対して、「カバンが盗まれた」などとうその電話をかけて現金をだまし取ろうとしたようです。
② 架空料金詐欺の事例
令和2年12月に有料サイトの利用料名目で現金をだまし取ろうとして、東京都在住の男性ら3人が詐欺未遂容疑で逮捕されました。
容疑者の男性らは、被害者に対してアダルトサイトの利用料金が支払われていない旨のメールを送り、電話をかけてきた被害者に対して「未納料金が35万6000円ある。支払わなければ法的手続きをとる」などとうそを言って、現金をだまし取ろうとしたようです。
③ 還付金詐欺の事例
平成29年5月に役場職員などを名乗って被害者に電話をかけ、医療費の還付を名目にATMを操作させ現金をだまし取ったとして、東京都在住の男性ら4人が詐欺容疑で逮捕されました。容疑者の男性らは、被害者に「医療費の還付金があり、ATMで受け取りができる」とうその電話をかけ、合計180万円の現金を不正に送金させたようです。
3、かけ子はどのような罪に問われるのか
特殊詐欺は、被害者を欺いて財物を交付させる犯罪です。かけ子は、詐欺グループの主要なメンバーとして、被害者を直接だます役割を担っていますので、かけ子に対しては、詐欺罪が成立する可能性があります(刑法246条1項)。詐欺罪の法定刑については、10年以下の懲役と規定されています。
かけ子がどの程度の刑を受けるかどうかについては、被害額、被害者の人数、詐欺グループとの関与の度合い、示談の成立の有無などさまざまな要素を総合考慮して判断することになります。この点、被害額については多額になることが多く、被害弁償もできなくなり、被害者と示談できず、実刑判決を受けるケースは多く見られます。
特殊詐欺については、組織的な犯行で暴力団などの資金源になっている疑いがあること、年々被害額が増えてきていること、高齢者などを狙った悪質な犯行が目立つことから、近年は、厳罰化の傾向にあります。たとえ初犯であったとしても、事件の内容次第では、執行猶予のつかない実刑判決となります。
4、逮捕後の流れ
かけ子として逮捕されたときには、以下のような流れで刑事手続きが進みます。
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(1)逮捕
かけ子の逮捕については、現行犯逮捕ではなく後日逮捕がなされることが一般的です。逮捕された場合には、警察は被疑者の取り調べを行い、逮捕から48時間以内に検察官に送致します。
送致を受けた検察官は、さらに取り調べを行い、裁判所に勾留請求を行います。
逮捕から勾留されるまでは、最長で72時間の身柄拘束を受けることになります。 -
(2)勾留
裁判所が勾留決定をすると、原則として10日間の身柄拘束が継続します。さらに、勾留については延長が認められており、延長決定がされればさらに10日間の身柄拘束が続くことになり、勾留期間は合計で20日間となります。
特殊詐欺は組織犯罪であるうえ、かけ子は詐欺グループの中でも主要な役割を担っています。事案解明を図るためには取り調べに時間がかかり、勾留の必要性も認められやすいです。そのため、勾留延長がなされて最大20日間の身柄拘束が続くことが多いです。 -
(3)起訴または不起訴
検察官は、勾留期間が満了するまでに、被疑者を起訴するか否かを決めます。不起訴処分となったときには、事件は終了し、被疑者は釈放されます。他方、事件を起訴する判断をしたときは、刑事裁判を受けることになります。この場合、保釈請求が認められないと身柄拘束も継続します。
5、刑事事件で弁護士を早期に選任すべき理由
刑事事件で逮捕されたときには、以下の理由から早期に弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)取り調べに対する適切なアドバイスができる
逮捕された時点で被疑者と面会することができるのは、弁護士だけです。勾留決定後であれば、家族でも被疑者と面会をすることができますが、特殊詐欺の事案では、犯行グループとの口裏合わせを防ぐため、接見禁止処分がなされることがあります。接見禁止処分がなされたときには、たとえ家族であっても面会することは認められず、弁護士しか面会できないことになります。
逮捕されると、気持ちは動揺し、警察官の誘導に乗って、事実と異なる不利益な事実を認めてしまうことがあります。いったん不利益な事実を認めてしまうと、裁判などで覆すことは極めて難しくなりますので、取り調べに対しては慎重に対応しなければなりません。
弁護士であれば、早期に被疑者と面会をし、逮捕後の流れや取り調べの対応方法についてアドバイスすることが可能です。被疑者本人としても、弁護士と面会することによって精神的負担が軽減されるといえるでしょう。 -
(2)示談に向けて活動できる
検察官が起訴・不起訴の判断をする際や裁判官が量刑を考える際には、被害者と示談が成立しているかどうかを非常に重要視します。被害者と早期に示談を成立させることができれば早期の釈放を期待できますし、仮に刑事裁判となった場合も軽い刑罰になりえます。
被害者との示談は、身柄拘束されている本人が進めることは無理ですし、家族が進めることも難しいといえます。弁護士であれば、被害者から一定の信頼を得ることができるため、示談を適切に進めることができます。
6、まとめ
特殊詐欺に関しては、近年厳罰化の傾向がありますので、かけ子として特殊詐欺に関与してしまった方は、初犯であっても詐欺罪で実刑判決を受ける可能性が高いです。
もし、身内の方がかけ子として逮捕された場合には、早期に弁護士を依頼する必要がありますので、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスまでご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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