偏頗弁済とは? 行った場合の影響や対象となる行為について
- 自己破産
- 偏頗弁済
自己破産を申し立てる場合、債務者は「偏頗弁済」を行うことが禁止されます。
偏頗弁済を行うと、破産管財人による否認権行使・免責不許可・特定の債権者に対する担保の供与等の罪の成立など様々な問題が生じ得ます。円滑に破産免責を得るためにも、偏頗弁済に当たる行為を正しく理解したうえで、自己破産申立ての前後で該当する行為をしないように十分ご注意ください。
今回は、自己破産において問題となる「偏頗弁済」の影響や対象行為などについて、ベリーベスト法律事務所 東大阪オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「消費者行政事業概要 令和2年度」(東大阪市))
1、偏頗弁済とは?
「偏頗弁済(偏頗行為)」とは、債務者が特定の債権者だけに対して弁済を行ったり、担保を供与したりする行為を意味します。
偏頗弁済が問題となるのは、主に自己破産や個人再生を申し立てた場合です。
自己破産や個人再生の手続きは、債権者が公平に債権放棄などの不利益を負担して、債務者の救済を図ることを目的としています。
したがって、債権者ごとの配当や債権カットなどの処遇は破産手続き・再生手続きにのっとって決定されなければなりません。
しかし、債務者が勝手に偏頗弁済を行ってしまうと、一部の債権者が満足を得る一方で、他の債権者は債務者財産が減少することによる不利益を被ってしまいます。
このような結果は、債権者間の公平を害するものです。
そこで、破産法・民事再生法では、債務者による不当な偏頗弁済にペナルティーを課すことで、債権者間の公平性を確保する仕組みが整備されています。
2、偏頗弁済をした場合に生じる破産手続きへの影響
破産法の規定に沿って、債務者(破産者)が偏頗弁済を行った場合に、破産手続きへどのような影響が生じるのかを見てみましょう。
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(1)破産管財人により弁済が否認される
偏頗弁済は、破産管財人による偏頗行為否認の対象とされています(破産法第162条)。
破産管財人が否認権を行使した場合、偏頗弁済によって債務者から債権者へ交付された財産(金銭など)は、破産財団に復帰します(破産法第167条第1項)。
偏頗弁済を受けた債権者は、否認された弁済に対応する金銭等を、破産管財人に対して返還しなければなりません。
債権者が弁済金を使ってしまった場合でも、返済時の額面全額を返還する必要があります(同条第2項参照)。 -
(2)破産免責が認められない可能性がある
債権者に特別の利益を与える目的、または他の債権者を害する目的で行われた義務のない偏頗弁済は、免責不許可事由とされています(破産法第252条第1項第3号)。
免責不許可事由がある場合、原則として破産免責が認められません。
つまり、自己破産を申し立てたにもかかわらず、最終的に債務が免除されず、借金などが残ってしまう結果となる可能性があります。
なお、免責不許可事由が存在する場合でも、裁判所の判断によって「裁量免責」が認められる余地はあります(同条第2項)。
しかし、裁量免責は確実に認められるわけではないため、裁判所に対する反省や更生可能性などのアピールが必要です。
円滑に破産免責を得るためにも、自己破産申立て前後の偏頗弁済は避けるべきでしょう。 -
(3)刑事罰を科される可能性がある
他の債権者を害する目的で義務のない偏頗弁済を行った場合、「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」が成立し、犯罪の責任を問われる可能性があります(破産法第266条)。
法定刑は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」で、併科される場合もあります。
偏頗弁済について成立する同罪は、刑法上の横領罪などと同様に、最大5年の懲役が科される重罪です。
捜査機関に逮捕・起訴されたり、有罪判決が確定して刑事罰が科されたりすると、生活や人間関係などに深刻な悪影響が生じてしまうので、安易な偏頗弁済は絶対に避けましょう。
3、偏頗弁済に当たる行為・当たらない行為の例
破産法上の偏頗弁済に関する各規定は、規制の対象となる偏頗弁済について、それぞれ異なる要件を定めています。
各要件に沿って、偏頗弁済に当たる行為・当たらない行為の具体例を見ていきましょう。
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(1)破産管財人の否認対象となる偏頗弁済の例
破産管財人による否認の対象となる偏頗弁済は、以下の①~③のいずれかに該当する行為として、比較的広く定義されています(破産法第162条第1項)。
① 破産者が支払不能になった後に行われた、既存債務に係る担保の供与または債務の消滅に関する行為。
ただし、破産者が支払不能であったことまたは支払の停止があったことにつき、当該行為の時点で債権者が知っていた場合に限ります。
(例)- 破産者は、債務の大半を長期間支払えない状態であったにもかかわらず、親族から借りているお金だけを全額弁済した。
債権者である親族は、破産者が支払不能であることを知って弁済を受け取った。
② 破産手続開始の申し立てがあった後に行われた、既存債務に係る担保の供与または債務の消滅に関する行為。
ただし、破産手続開始の申し立てがあったことにつき、当該行為の時点で債権者が知っていた場合に限ります。
(例)- 破産者は、破産手続開始の申し立てを行った後、親族から借りているお金だけを全額弁済した。
- 債権者である親族は、すでに破産手続開始の申し立てがあったことを知って弁済を受け取った。
③ 破産者の義務に属せず、またはその時期が破産者の義務に属しない既存債務に係る担保の供与または債務の消滅に関する行為であって、支払い不能になる前30日以内に行われたもの。
ただし、他の破産債権者を害することにつき、当該行為の時点で債権者が知っていた場合に限ります。
(例)- 破産者は、まだ弁済期が到来していない親族から借りているお金を全額弁済した。
- その20日後に、破産者は他の債権者に対する債務の支払いを行うことが全くできなくなった。
- 債権者である親族は、返済を受ければ破産者が他の債権者に債務を支払えなくなることを知っていた。
- 破産者は、債務の大半を長期間支払えない状態であったにもかかわらず、親族から借りているお金だけを全額弁済した。
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(2)免責不許可事由に当たる偏頗弁済の例
免責不許可事由に該当する偏頗弁済は、以下の①~③のすべてを満たす行為であり、破産管財人による否認の規定よりは狭く定義されています(破産法第252条第1項第3号)。
① 特定の債権者に対する債務についての、担保の供与または債務の消滅に関する行為であること
② 当該債権者に特別の利益を与える目的、または他の債権者を害する目的を有すること
③ 債務者の義務に属せず、またはその方法もしくは時期が債務者の義務に属しないものであること
(例1)- 破産者は、他の債権者に対する弁済が不可能になることを知りつつ、債権者である親族に対して期限前弁済をした。
- 破産者は、他の債権者に対する弁済が不可能になることを知りつつ、債権者である親族に対して、代物弁済として不動産を譲渡した。
- 破産者は、他の債権者に対する弁済が不可能になることを知りつつ、債権者である親族に対して期限前弁済をした。
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(3)刑事罰の対象となる偏頗弁済の例
「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」が成立する偏頗弁済は、以下の①~④のすべてを満たす行為であり、免責不許可事由の規定よりもさらに狭く定義されています(破産法第266条)。
① 特定の債権者に対する債務についての、担保の供与または債務の消滅に関する行為であること
② 他の債権者を害する目的を有すること
③ 債務者の義務に属せず、またはその方法もしくは時期が債務者の義務に属しないものであること
④ 破産手続開始の決定が確定したこと
(例)- 破産者が、「他の債権者(消費者金融など)に返済するくらいならば」と考えた結果、債権者である親族に対して期限前弁済をした。
- その後、破産者は自己破産を申し立て、破産手続開始の決定が確定した。
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(4)偏頗弁済に当たらない行為の例
たとえば以下に挙げる行為は、上記偏頗弁済の各要件のいずれにも該当しないため、破産法との関係で違法ではないと考えられます(財産減少行為等に該当する場合を除きます)。
- 支払い不能ではなく、破産手続開始の申し立てを行う前の段階で、破産者が行った弁済期が到来した債務の返済
- 支払い不能になった日よりも31日以上前に、破産者が行った期限前返済
4、債務整理に関するご相談は弁護士へ
債務整理の中でも、特に自己破産や個人再生を申し立てる場合には、財産減少行為や偏頗弁済を行わないように十分注意する必要があります。
弁護士にご相談いただければ、破産手続き・再生手続きにおいて準備すべきこと・やってはいけないことなどについて、専門的な視点からアドバイスいたします。
また、各手続きの準備・対応も全面的に弁護士が代行いたしますので、安心してお任せいただけます。
借金などの返済負担が重く、債務整理をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
自己破産申立ての前後で偏頗弁済(偏頗行為)を行うと、破産管財人による否認や免責不許可事由、刑事罰の対象となるおそれがあります。
思わぬ形でペナルティーを受ける事態を避けるためにも、弁護士のアドバイスを受けながら、偏頗弁済をしないように十分ご注意ください。
ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスは、債務整理に関するご相談を随時受け付けております。
借金の返済が難しくなってお困りの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスにご相談ください。
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