労災を申請するときに領収書を紛失した場合の対応は?
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労働基準監督署へ労災保険給付を請求する場合には、医療費の領収書の添付が必要となることがあります。
もし医療費の領収書を紛失してしまった場合には、「療養費等領収書紛失届」を労働基準監督署に提出すれば、支出した医療費の還付を受けられます。労災保険給付の請求手続きがわからない場合は、労働基準監督署の窓口に相談しましょう。
本コラムでは、労災申請に必要な医療費の領収書を紛失してしまった場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。
1、労災申請の際に医療費の領収書は必要か?
業務中や通勤中に生じた負傷や疾病については、労働基準監督署に対して労災保険給付を請求することができます。
労災による負傷や疾病の医療費について労災保険給付を請求する際に領収書の添付が必要か否かは、受診先の医療機関等がどこであるかによって異なります。
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(1)労災病院・労災保険指定医療機関を受診した場合、領収書は不要
労災病院または労災保険指定医療機関では、労災による負傷や疾病の治療を無償で受けられます。
これは労災保険給付の一種であり、「療養の給付」と呼ばれています。
療養の給付を受ける場合は、医療機関の窓口における自己負担は発生しません。
医療機関の窓口には労働基準監督署に提出する請求書を提出する必要がありますが、その際に領収書を添付する必要もありません。
なお、労災保険指定薬局で薬剤の処方を受けた場合にも同様に無償で薬剤を受け取れるため、療養の給付の請求にあたって領収書を添付する必要はないのです。 -
(2)労災申請の際に医療費の領収書が必要となる場合の例
以下のいずれかに該当する場合には、労災保険給付を請求する際に、原則として医療費の領収書を添付しなければいけません。
① 療養の費用の支給を請求する場合
- 労災病院または労災保険指定医療機関以外の医療機関で治療を受けた場合
- 労災保険指定薬局以外の薬局で薬剤の処方を受けた場合
療養の費用の支給を請求する際には、原則として窓口負担額の領収書が必要になります。
② 誤って健康保険を適用して治療を受け、後に労災保険への切り替えをする場合
→労災にあたる負傷や疾病の治療については労災保険が適用されるため、健康保険の適用を受けることができません。
健康保険を適用して治療を受ける際には、医療費の1割から3割の窓口負担額が発生します。労災保険に切り替えて窓口負担額の還付を受けるためには、原則としてその領収書が必要です。
2、医療機関に領収書の再発行を請求できるか?
医療機関は、窓口で医療費を支払う患者に対して、その弁済と引き換えに領収書などの受取証書を交付する義務を負います。
受取証書が交付されない場合、患者は医療費の支払いを拒否することができます(民法第486条)。
ただし、医療機関が患者に対して領収書を発行する義務を負うのは、医療費の支払いがなされるタイミングという一度のみです。
患者が領収書を紛失したとしても、医療機関は患者に対して領収書を再発行する義務を負いません。
医療機関によっては、好意で領収書を再発行してくれるところもあります。
しかし、領収書の重複使用などの悪用を防ぐため、領収書の再発行に応じていない医療機関も多いのです。
労災保険給付の請求に必要な医療費の領収書を紛失した場合には、まずは医療機関に再発行を依頼することを検討しましょう。
しかし、必ずしも再発行に応じてもらえるとは限らないということを留意しておいてください。
3、医療費の領収書を再発行してもらえない場合の対処法
労災保険給付の請求に必要な医療費の領収書を紛失して、医療機関が再発行に応じてくれない場合には、以下の方法によって対処しましょう。
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(1)療養費等領収書紛失届を作成・提出する
労働基準監督署では、必要な医療費の領収書が添付されていなくても、「療養費等領収書紛失届」が提出されれば、調査のうえで労災保険給付(療養の費用の支給)を行う運用がなされています。
療養費等領収書紛失届の様式は、厚生労働省がオンライン上で公開しているほか、各労働基準監督署の窓口で交付を受けることができます。
労働基準監督署によって様式が異なる場合があるので、詳しくは窓口でご確認ください。 -
(2)領収書以外の資料で支払いを証明する
医療費などの領収書を紛失して提出できないと、労働基準監督署から代わりの資料の提出を求められる可能性があります。
その場合には、以下のような資料を用いて医療費の支払いを証明しましょう。- クレジットカードの利用履歴
- 出金伝票
- 医療機関が発行する支払証明書(有料)
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(3)手続きがわからない場合は、労働基準監督署に相談する
労災保険給付の請求に必要な書類(給付請求書など)や手続きについては、請求先の労働基準監督署に相談すれば案内を受けられます。
医療費の領収書を紛失した場合の対応についても、労働基準監督署に相談すればアドバイスが得られます。
労災保険給付の請求先は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。
厚生労働省のウェブサイトから該当する労働基準監督署を検索して、労災保険給付の請求に関する事前相談を申し込んでください。
4、労災申請の際には期限に要注意
業務上の原因により、または通勤中に生じた労働者の負傷・疾病・障害・死亡については、以下のような労災保険給付を請求することができます(会社が労災保険への加入手続きを済ませているか否かを問いません)。
労災病院または労災保険指定医療機関において、負傷等の治療を無料で受けられます。
また、労災保険指定薬局では、薬剤の処方を無料で受けることができます。
その他の医療機関で治療を受けた場合や、その他の薬局で薬剤の処方を受けた場合には、窓口負担全額の償還を受けられます。
(b)休業(補償)給付
労災による負傷や疾病の治療のために仕事を休んだ場合、休業期間中に得られなかった収入が補償されます。
(c)障害(補償)給付
労災によって後遺症が残った場合に、労働能力の喪失による逸失利益が補償されます。
(d)遺族(補償)給付
死亡した被災労働者の遺族に対して、生活保障の目的で給付されます。
(e)葬祭料・葬祭給付
死亡した被災労働者の葬儀費用が補償されます。
(f)傷病(補償)給付
労災による障害等級第3級以上の負傷や疾病が、1年6か月以上治らない場合に給付されます。
(g)介護(補償)給付
障害等級第1級の障害が残り、または第2級に該当する精神神経や腹膜部臓器の障害が残った被災労働者が現に介護を受けている場合には、介護費用が補償されます。
※カッコ内は業務災害の場合です。たとえば療養(補償)給付は、業務災害であれば療養補償給付、通勤災害であれば療養給付となります。
なお、各労災保険給付には請求期限がある点に注意してください。
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(1)各労災保険給付の請求期限
各労災保険給付の請求期限は、以下のとおりです。
療養(補償)給付 療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 休業(補償)給付 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 遺族(補償)給付 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 葬祭料(葬祭給付) 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年 傷病(補償)年金 なし(労働基準監督署長の職権により移行されるため) 障害(補償)給付 傷病が治癒した日の翌日から5年 介護(補償)給付 介護を受けた月の翌月の1日から2年 -
(2)労災保険給付の期限を経過した場合の対処法
請求期限を経過した労災保険給付は、労働基準監督署に対して請求できなくなります。
その一方で、会社に使用者責任(民法第715条第1項)または安全配慮義務違反(労働契約法第5条)が認められて、かつ損害賠償請求権の時効が完成していない場合には、会社に対する損害賠償を請求できます。
弁護士であれば、時効完成の有無を確認したうえで、会社から適正額の損害賠償を獲得できるようにサポートすることができます。
労災に関する損害賠償の請求については、お早めに、弁護士までご相談ください。
5、まとめ
労災の医療費について労災保険給付を請求する際には、領収書の添付が必要なことがあります。
ただし、領収書を紛失したとしても、ただちに労災保険給付を請求できなくなるわけではありません。
領収書紛失時の手続きについては、請求先の労働基準監督署に確認しましょう。
労災による損害については、労災保険給付以外にも会社に対する損害賠償を請求することができます。
会社に損害賠償を請求する際には、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、労災に関するご相談を随時受け付けております。
ご自身や家族が労災に遭ったことから、会社に対する損害賠償の請求を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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