ペーパー離婚をするには? デメリットや手続きを解説

2025年09月08日
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ペーパー離婚をするには? デメリットや手続きを解説

戸籍上は離婚したことにしながら、実生活では夫婦としての関係を続ける「ペーパー離婚」という選択肢があります。主に夫婦別姓を実現したい、法律上の夫婦関係に伴う義務を避けたいといった理由から選ばれることが多く、近年関心が高まりつつあります。

ただし、ペーパー離婚には夫婦別姓を実現できるというメリットだけではなく、相続権を失うなどのデメリットもあるため、慎重な検討が必要です。

今回は、ペーパー離婚のメリット・デメリットやペーパー離婚の手続きについて、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します


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1、ペーパー離婚とは? 偽装離婚との違いは?

ペーパー離婚とは、どのような離婚なのでしょうか。以下では、ペーパー離婚の定義と偽装離婚、事実離婚との違いについて説明します。

  1. (1)ペーパー離婚の定義とは?

    ペーパー離婚とは、離婚届を提出して法律上の婚姻関係を解消しながらも実際の生活では引き続き夫婦として暮らし続ける状態になることをいいます。

    一般的な離婚では、離婚後夫婦関係を解消して別々に生活しますが、ペーパー離婚は、離婚後もこれまでどおり婚姻生活を続けていくのが特徴です。すなわち、書類上の形式的な離婚であることから「ペーパー離婚」と呼ばれています。

  2. (2)ペーパー離婚と偽装離婚の違いとは? 偽装離婚と判断された場合のリスク

    偽装離婚とは、夫婦としての実態があるにもかかわらず、離婚届を提出して形式上の離婚を装うことをいいます。偽装離婚とペーパー離婚は、外形上は共通しますが、偽装離婚には以下のような不正な目的がある点でペーパー離婚とは異なります。

    • 生活保護や児童扶養手当を受給するため
    • 子どもを保育園に入れるため
    • 節税目的で財産分与をするため
    • 自己破産前に財産の名義を変更し、財産の処分を回避するため

    偽装離婚は、不正な目的で離婚制度を利用する方法ですので、偽装離婚にあたると判断されると、生活保護や児童扶養手当の支給が打ち切られ、過去の支給分の返還を求められるリスクがあります。また、不正に手当を受給すると刑事罰が科されるリスクもあります。

  3. (3)ペーパー離婚と事実離婚との違いとは?

    事実離婚とは、離婚届を提出せずに、事実上夫婦としての共同生活をやめることをいいます。婚姻関係は継続していますが、実質的には別居している状態です。

    事実離婚は、ペーパー離婚とは異なり法律上の婚姻関係は継続していますので、夫婦の義務や相続権は残った状態になります。

    たとえば、夫婦関係は破綻しているものの子どもが成人するまで離婚したくないという場合などに事実離婚が利用されます。

    これに対し、ペーパー離婚は、戸籍上の婚姻関係を終了させること、事実上の夫婦としての共同生活を継続する点が明確に違います。

2、ペーパー離婚のメリットとデメリットとは?

ペーパー離婚には、メリットだけではなくデメリットもあるため、ペーパー離婚は慎重に検討しなければなりません。

  1. (1)ペーパー離婚のメリット

    ペーパー離婚のメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。

    ① 夫婦別姓を実現することが可能
    ペーパー離婚をすることで、戸籍上の姓を旧姓に戻し、夫婦別姓を実現することができます

    現行の法律では、婚姻した夫婦はどちらか一方の姓を選択しなければなりません。結婚により姓が変わると、免許証やクレジットカードなどの名義変更が必要になり、仕事でも新たな姓を使わなければならないなど煩雑な手続きを強いられます。

    特に近年では、女性の社会進出が進み、婚姻後も元の姓を使い続けたいという方も増えてきています。

    ペーパー離婚を行うことで、旧姓に戻り、公私の名義を一致させたいという希望が実現できます。

    ② 法律上の夫婦の義務を負わずに済む
    結婚した夫婦には、法律上、以下のような義務が発生します。

    • 同居義務:夫婦が同じ場所に居住して生活しなければならない義務
    • 協力義務:夫婦がお互いに協力して共同生活を送らなければならない義務
    • 扶助義務:自分の生活と同程度の水準を相手に保障しなければならない義務

    ペーパー離婚は、夫婦としての実態はありますが、法律上は夫婦ではありませんので、上記のような義務は発生しません。そのため、夫婦としての法律上の義務が煩わしいと感じる場合に、ペーパー離婚が選択されます

    ③ 旧姓のまま公的書類を取得することができる
    ペーパー離婚をすれば、婚姻により姓を変更した人は、旧姓に戻すことができます

    仕事で事実上旧姓を用いている場合、身分証明が必要な場面では婚姻後の姓を名乗らなければならず、面倒に感じる方もいると思います。

    ペーパー離婚をすれば旧姓のまま公的書類を取得することができますので、自称する姓と身分証明書の姓を一致させることが可能です。

  2. (2)ペーパー離婚のデメリット

    ペーパー離婚のデメリットとしては、主に以下の4つが挙げられます。

    ① 離婚すると相続権が失われるため、遺産を受け取るためには遺言が必要となる
    離婚をすると配偶者としての相続権が失われてしまいますので、パートナーが亡くなったときに遺産を相続することができません

    長年夫婦としての実態を伴い生活してきても、ペーパー離婚の状態では遺産を相続できませんので、相手が亡くなるとその後の生活が著しく不安定なものになってしまいます。

    なお、生前に遺言書を作成しておけば、相続人でなくても遺産を取得することができますので、ペーパー離婚をする際には、遺言書の作成が必須です。

    ② 周囲の人から理解されないリスクがある
    ペーパー離婚が増えてきているといっても、まだ世間の認知度は低いため、行政機関や周囲の人からは理解してもらえない可能性があります。

    ペーパー離婚の意義や目的を理解していない人からすると「離婚したはずなのにどうしてまだ一緒に住んでいるの?」と不審に思われてしまい、行政機関や周囲の人への説明が必要な場合もあります。

    ③ 子どもの親権は父母のいずれか一方となる
    子どもがいる夫婦が離婚する場合、どちらか一方を親権者に指定しなければなりません。現行法では共同親権が認められていないため、ペーパー離婚であっても親権者の指定が必要です。

    この状態で子どもの親権者が亡くなると、他方の親に自動的に親権が移行することはありません。子どもの親権を得るには遺言書や戸籍謄本などを市区町村役場に提出しなければならないなどの煩雑な手続きが必要になります。

    ④ 偽装離婚を疑われる
    ペーパー離婚と偽装離婚は、外形上ほとんど違いがないため、周囲の人や行政機関などから誤解を招くおそれがあります。

    特に、同じ住所に住み続けていたり、日常生活で夫婦としての実態が見られる場合には、「本当に離婚しているのか」「制度を悪用していないか」といった疑念を抱かれる可能性があるでしょう。

    そのため、ペーパー離婚を選択する際には、目的や事情を整理したうえで、必要に応じて弁護士と相談し、後のトラブルに備えて適切な記録や書面を整えておくことが重要です。誤解から不利益を被らないためにも、丁寧な準備と説明が欠かせません。

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3、ペーパー離婚に必要な手続きとは?

ペーパー離婚をするにはどのような手続きが必要になるのでしょうか。以下では、ペーパー離婚に必要な手続きについて説明します。

  1. (1)離婚届を役所に提出する

    ペーパー離婚も法的には通常の離婚と変わりませんので、市町村役場に離婚届を提出する必要があります。

    この提出によって法律上の婚姻関係は終了し、婚姻によって変更していた姓は自動的に旧姓に戻ります。

  2. (2)世帯変更届を提出する

    離婚後も同居を続ける場合、「世帯変更届」を提出し、住民票に「夫(未届)」または「妻(未届)」と記載してもらいましょう。

    世帯変更届を提出することで、住民票を異動することなく世帯構成を変更できますので、公的に事実婚の状態にあることを証明できるようになります。

  3. (3)公正証書で婚姻関係契約書や遺言を作成する

    ペーパー離婚により法律上の婚姻関係が解消され事実婚の状態となります。この状態では、法的な保護がほとんどありませんので、いざというときに備えて、公正証書で以下の書類を作成するようにしましょう。

    ① 婚姻関係契約公正証書
    婚姻関契約公正証書とは、事実婚状態を証明するとともに、事実婚状態を解消する際のトラブルを防止するために利用される公正証書です。

    婚姻関係契約公正証書には、主に以下のような内容を記載します。

    • 夫婦間の義務(同居、協力、扶助義務など)
    • 生活費の負担割合や方法
    • 子どもが生まれたときの認知や養育監護
    • 双方の両親の扶養

    ② 遺言公正証書
    ペーパー離婚をすると配偶者としての相続権が失われますので、遺産を相続するには遺言書の作成が必要です。公正証書遺言を利用すれば、偽造や紛失のおそれがなく無効になるリスクもないため自筆証書遺言ではなく公正証書遺言がおすすめです。

    なお、どちらが先に亡くなるかわかりませんので、お互いに遺言書を作成しておくべきでしょう。

4、ペーパー離婚を弁護士に相談すべき理由とは?

ペーパー離婚をお考えの方は、以下のような理由から弁護士に相談することをおすすめします

  1. (1)ペーパー離婚をすべきかどうかについて適切なアドバイスをしてもらえる

    ペーパー離婚は、夫婦別姓を実現できるというメリットがありますが、配偶者としての相続権を失うため、ペーパー離婚をすべきかどうか慎重に検討する必要があります。

    弁護士は、法的観点からメリット・デメリットを丁寧に説明し、ペーパー離婚をすべきかどうかについて適切なアドバイスを行います。ペーパー離婚で後悔しないようにするためにも、離婚する前に一度弁護士に相談してみることをおすすめします

  2. (2)偽装離婚を疑われないように適切に手続きを進められる

    ペーパー離婚と偽装離婚は、目的が異なるだけで外形上は全く一緒ですので、周囲からは偽装離婚を疑われるリスクがあります。また、偽装離婚により公的手当などを不正に受給する行為は、違法な行為ですので罪に問われる可能性もあります。

    このような偽装離婚のリスクを回避しながらペーパー離婚を進めるには、弁護士のアドバイスやサポートが有効です。弁護士に相談すれば、法的リスクを最小限に抑えながらペーパー離婚を行うことが可能です。

  3. (3)公正証書などの必要な書類を作成してもらえる

    ペーパー離婚をすると、法律婚の夫婦に比べて法的な保護が弱くなります。特に、配偶者としての相続権がなくなってしまいますので、将来内縁の配偶者が亡くなったときに備えて遺言書の作成が必要になります。

    弁護士は、適切な内容で遺言書を作成することができ、公正証書の作成までサポートできます。将来のリスクを可否するためにもしっかりと準備をしてペーパー離婚を行いましょう。

5、まとめ

ペーパー離婚をすることで夫婦としての生活を送りながら夫婦別姓を実現することができます。ただし、ペーパー離婚にはメリットだけではなくデメリットもあるため、ペーパー離婚は、弁護士に相談してアドバイスを受けながら進めていくことをおすすめします。

ペーパー離婚をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています