外国人の従業員を採用するときに注意したい、雇用保険の届け出と期限
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令和元年の大阪府の外国人労働者数は、約10万5000人です。この数字は平成22年の労働者数の約3倍で、ここ数年で外国人労働者が非常に増えていることがわかります。こうした統計を見る限り、外国人の雇い入れは、以前より身近なものになっていると言えるでしょう。
しかし実際に雇うとなると、さまざまな法律の知識を身につけたり、書類の準備をしたりしなければいけません。特に雇用保険の届け出書については提出期限があり、守らないと罰則が科される可能性もあるため注意が必要です。
この記事で、外国人雇用に関係する法律を踏まえた上で、雇用保険に関する事項を、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士がご紹介します。
1、外国人の雇用に関係する法律を解説
最初に、外国人の雇用に関わる重要な法律をご紹介します。
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(1)労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(いわゆる雇用対策法)は、労働者の職業訓練や雇用対策などを通して、労働力の需要・供給のバランスを保つために制定された、雇用政策の基本法とも言われている法律です。第28条1項では外国人雇用状況の届け出が義務づけられていて、違反した場合の罰則は30万円以下の罰金となっています。
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(2)出入国管理及び難民認定法
出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)は、日本に入国する方、出国する方すべてに適用される法律です。特に第22条の2で規定されている在留資格は、後ほど詳しくご紹介しますが、雇用する企業に大きく関係します。もし、就労可能な在留資格のない外国人を雇用するなどして不法就労活動をさせてしまった場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
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(3)それ以外の法律
外国人労働者は、日本人労働者と同じで労働基準法や労働契約法、最低賃金法などの労働関係法令が適用されます。健康保険法や雇用保険法、厚生年金保険法などの社会保険関係法令も同様です。
2、雇用保険に関係する届け出書の提出先と提出期限
雇用対策法第28条第1項によれば、企業は外国人雇用状況を厚生労働大臣に届け出る義務があります。
しかし、具体的にどのような書類をいつまでに出す必要があるのかは、当該の労働者が被保険者になるかどうか、で変わります。以下、それぞれに分けて詳しくご紹介しましょう。
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(1)雇用保険の被保険者である外国人に係る届け出
雇用保険の被保険者である外国人に係る届け出の場合、雇用保険被保険者資格取得届と在留カード(※)番号の届け出書を、雇用保険の適用を受けている事業所を、管轄しているハローワークに提出します。提出期限は、雇い入れした日の翌月10日までです(雇用保険被保険者資格喪失届も同じです)。
(※)在留カードは、中長期在留者(3か月以下の在留期間が決定された方や短期滞在の在留資格が決定された方、外交または公用の在留資格が決定された方などを除く)に発行されるカードです。氏名、生年月日、性別などの身分に関する基本情報のほか、在留資格や在留期間、就労制限の有無などが記載されています。
雇用保険被保険者資格取得届には、日本人労働者のときに記載する分に加えて、以下の欄も記入します。- 17欄:被保険者氏名(ローマ字)
- 18欄:在留カードの番号
- 19欄:在留期間
- 20欄:資格外活動許可の有無
- 21欄:派遣・請負就労区分
- 22欄:国籍・地域
- 23欄:在留資格
令和2年3月1日以降に雇い入れ、離職をした外国人については在留カード番号の届け出が必要となるため、在留カード番号欄の無い取得届、喪失届を使用する場合は、外国人労働者在留カード番号記載様式に事業所番号、事業所名、氏名(ローマ字)、在留カード番号を記載し、取得届や喪失届と併せて届け出します。被保険者番号を記入する欄もありますが、当該労働者が初めて雇用保険の被保険者となる場合は生年月日の記入でも構いません。 -
(2)雇用保険の被保険者ではない外国人に係る届け出
雇用保険の被保険者ではない外国人に係る届け出の場合、外国人雇用状況届出書(これは様式第3号とも呼ばれています)を、当該外国人労働者が働く事業所の住所を管轄するハローワークに提出します。提出期限は、雇い入れした日の翌月末日までです。
外国人雇用状況届出書では、外国人の氏名(ローマ字または漢字)、在留資格・在留期間・生年月日・性別・国籍や地域・資格外活動許可の有無・在留カードの番号を記入します。 -
(3)雇用保険の適用基準
雇用保険の適用基準は、日本人労働者と同じです。雇用期間が31日以上である、31日未満での雇止めの明示がない、などのときは適用されます。所定労働時間が週20時間以上のときも対象です。
3、そのほか提出するべき書類や確認すべき事項
外国人の雇用では、外国人雇用状況の届け出のほかにも、さまざまな書類の提出や確認する事項があります。特に気をつけたいものをご紹介します。
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(1)提出するべき書類「外国人労働者に在留資格を取得してもらうとき」
在留資格を取得していない(国外にまだいる)外国人を雇い入れるときは、先に出入国在留管理局で在留資格認定証明書を発行してもらうとスムーズです。申請は、当該外国人労働者本人もしくは代理人が行いますが、必要書類として登記事項証明書や定款の写しなどが求められるので企業も協力する必要があります。
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(2)提出するべき書類「外国人労働者に在留資格を変更してもらうとき」
雇い入れのために、すでに取得している在留資格の変更が必要になったときも同様です。在留資格変更証明書などの書類を提出するのは本人もしくは代理人ですが、企業も事前に在留資格認定と同様の書類をそろえておかなければいけません。
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(3)確認事項「在留カード番号の有効性」
在留カードは、住居地を管轄する出入国管理局(大阪の場合は大阪出入国在留管理局)で交付されるものですが、まれに偽造カードが作られ、使われるケースがあります。面接時に在留カードを見て、少しでも気になるときは、出入国管理局のホームページでカード番号の有効性を確かめるといいでしょう。最寄りの出入国管理局に、直接問い合わせるのも有効です。
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(4)確認事項「在留資格」
在留カードを見せてもらったときは、在留資格が就労できるものかどうかも確認しましょう。就労できない外国人を雇ってしまうと、出入国管理及び難民認定法違反になり、罰則が科される可能性があります。
就労可能な在留資格は、外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤などです。特別永住者、永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者、定住者のような身分または地位に基づく在留資格でも就労できます。
一方、就労できない在留資格には、文化活動・短期滞在・留学・研修・家族滞在があります。ただし、資格外活動の許可申請をすれば、一定の制限はつくものの働くことが可能です。ですので、就労不可の在留資格を持つ外国人のときは、在留カード裏面の資格外活動許可欄やパスポートの資格外活動許可証印などを見て、資格外活動が許可されているか、許可されている活動内容は何かなどを確認するといいでしょう。
4、外国人従業員を受け入れ時に気を付けたいトラブルとは
外国人の雇用では、トラブルが思わぬところで発生することがあります。ありがちなケースをご紹介するので、リスク回避を目指すときの参考としてください。
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(1)言語の壁によるトラブル
外国人従業員を受け入れるときに、よく起こるのが言語の壁によるトラブルです。特に労働条件や就業規則の内容がうまく伝わっていなかったケースは少なくありません。雇用前に各書類の文言を見直して相手が理解できるかどうか確認する、口頭でも説明して理解が得られるように努めることが大切です。
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(2)価値観の違いによるトラブル
日本人同士ならすぐに理解できることでも、外国人が相手だとうまく意思疎通ができないことがしばしばあります。働き方に対する考え方の違いで、従業員の間でトラブルが起きることもあるでしょう。日頃からコミュニケーションが取れる環境を作り、お互いのストレスがたまらないように配慮する必要があります。
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(3)法制度の理解不足によるトラブル
外国人の雇用に関わる法律は、国が推し進めている働き方改革の影響で、定期的に改正されています。知らず知らずのうちに法律に違反しないように、厚生労働省や出入国在留管理庁の発表を随時確認することが求められます。
5、まとめ
外国人の雇用は、日本人労働者以上に気をつけなければならないことが多くあります。トラブルが発生しないようにしたい……と考えているなら、労働問題を多く取り扱っている弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士なら、在留資格の判断や書類の提出手順から、労働環境や契約書の作り方まで熟知しているので、さまざまなアドバイスをもらえます。
本コラムを紹介しているベリーベスト法律事務所も、そうしたリーガルリスクを回避するためのサポートが可能な弁護士が在籍しています。お困りでしたら、ぜひお気軽に問い合わせください。
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