実質的支配者リストを求められたら、どうする?
- 一般企業法務
- 実質的支配者リスト
銀行で新しく法人口座を開設しようとする場合には、「実質的支配者リスト」を求められることがあります。
実質的支配者リスト制度は近年に新しく設けられたものですが、会社が経済活動を行ううえで非常に重要な制度になっています。
本コラムでは、実質的支配者リストの概要や制度の目的、実際に実質的支配者リストを提出する際の方法などについて、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説いたします。
1、実質的支配者リスト制度の背景と目的、出した場合の効力
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(1)実質的支配者リスト制度の概要
「実質的支配者リスト」制度を具体的に説明すると「株式会社が商業登記所の登記官に対して、当該株式会社が作成した実質的支配者についての情報を記載した書面を添付書類とともに提出することで、当該株式会社の実質的支配者リストについて、所定の添付書面により内容を確認して、その写しを発行する制度」ということになります。
簡単にいえば、「その株式会社を実質的に支配している者を、役所のお墨付きのもと把握することができるようになる制度」のことです。
株式会社の実質的に支配している者について登記所(法務局)が情報の保管をすることで、その支配者のリストが必要になったときに、その情報の写しに登記所認証文をつけた書面を発行することができるのです。
実質的支配者リスト制度は2021年9月17日に公布された「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則」に基づきます。
この規則が2022年1月31日に施行されたことにより、同日から制度の運用が開始されました。 -
(2)実質的支配者リスト制度の背景・目的
実質的支配者リスト制度の主な目的は「マネーロンダリング防止の実効性確保」です。
実質的支配者リストの制度が活用される場面としては、「株式会社が新たに銀行口座を開設する」「銀行から融資を受ける場合など金融機関との取引において利用する」などの場面が想定できます。
このような場面では、「金融機関が取引しようとしていた株式会社は一見すると普通の問題のない会社であるかのように装うことで、実はその支配者はマネーロンダリングを企む国際的な組織であった」ということがあり得ます。
しかし、金融機関が実質的支配者リストを確認することで、背後の組織や人物を確認してマネーロンダリングを防止することが可能になるのです。
マネーロンダリングを日本語でいうと「資金洗浄」です。
違法な取引(麻薬や覚せい剤、詐欺その他の取引)、粉飾決算や脱税といった犯罪により獲得されたお金・収益を、そのお金がどこから来たのか出どころをわからなくすることによって、汚いお金を通常の取引で使うことができるきれいなお金に変えることができてしまいます。
このような資金の流れを規制せず、犯罪によって得た収益が自由に使えるのであれば、犯罪の歯止めが効かなくなってしまいます。
そのために、治安維持の観点から、マネーロンダリングを抑止する必要があるのです。
マネーロンダリングについては「犯罪収益移転防止法」という法律によって規制されています。
具体的には、銀行や信用金庫といった特定の事業者に対して、本人確認、疑わしい取引の届け出、取引時確認等を的確に行うための措置、取引記録の作成や保存などが義務付けられているのです。 -
(3)実質的支配者リストを提出した場合の効果
実質的支配者リストの制度は、株式会社が必ず利用するように義務付けられているものではありませんから、実質的支配者リストの制度を利用しなくとも、罰則などの何らかのペナルティーが生じるものではありません。
しかし、前述のとおり、金融機関には犯罪収益移転防止法に基づいて、取引相手の本人確認の実施や取引時確認等を的確に行うための措置が求められています。
そのため、金融機関で新たな法人口座の開設や融資などを行う場合には、実質的支配者リストの提出を求められることになるのです。
もし企業側が実質的支配者リストを提出しないのであれば、金融機関は、口座開設などを許可することはないでしょう。
したがって、実質上、企業が実質的支配者リスト制度を利用することは必要不可欠であるといえます。
2、実質的支配者リスト提出の流れ
登記所から実質的支配者リストの写しと認証文の交付を得るためには、まずは実質的支配者情報一覧の保管とその交付の申し出をしなくてはなりません。
以下では、実質的支配者リストを提出する際の具体的な手続きの流れを解説します。
- ① 会社内で実質的支配者リストを作成する。
- ② 実質的支配者リスト制度の申出書を作成する。
- ③ 添付書面を用意する。
- ④ 申出書や実質的支配者リスト、添付書面を、株式会社の本店所在地を管轄する法務局に対して提出する。
【2】商業登記所での確認と交付
- ① 登記官が会社から提出された書面の内容を確認して、内容に問題がなければ、当該会社の実質的支配者リストを保管する。
- ② 登記所による認証文が付された実質的支配者リストの写しを交付する。
【3】利用
交付された実質的支配者リストの写しを金融機関に提出する。
実質的支配者リストのひな形や登記所に提出する申出書の様式は、法務省のウェブサイトで公開されています。
3、実質的支配者とは、実質的支配者リストの対象者とは
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(1)実質的支配者とは
企業の「実質的支配者」とは、具体的には以下のような者のことです。
- ① 株式会社の50%を超える議決権を直接または間接に保有する自然人
- ② ①に該当する者がいない場合には、株式会社の議決権の25%を超える議決権を直接または間接に保有する自然人
通常、自然人に法人は含みませんが、実質的支配者リスト制度では、国や地方公共団体、上場企業等およびその子会社なども自然人に含めて判断されます。
「直接保有」とは、ある自然人であるAが、株式会社B社の議決権がある株式を自ら直接に持っていることをいいます。
「間接保有」とは、ある自然人であるAが、株式会社B社の株主であるC社を介在させることで、間接的な形でB株式会社の議決権ある株式を持っていることをいいます。この場合に、Aは、C社の50%超の議決権を有している必要があるので、AはC社を通じてB社の議決権を持っていることになります。 -
(2)実質的支配者リスト制度の対象者とは
実質的支配者リスト制度を利用することができるのは、株式会社と有限会社に限定されます。合同会社などの持分会社は実質的支配者リスト制度からは除外されていることに注意してください。
4、まとめ
実質的支配者リスト制度は、マネーロンダリングを防止するための一環として設立された制度であり、金融機関では2022年1月31日以降に実際の運用が開始されています。
マネーロンダリングを抑止するために金融機関の本人確認などは厳格な運用がされており、実質的支配者リスト制度を利用していなかったために融資や口座開設を断られてしまったという実例も存在します。
ベリーベスト法律事務所では、様式に沿った書面の作成や、「実質的支配者に該当する者はだれか」といった疑問に関する相談を承っております。
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