供託とは? 従業員の給料が差し押さえされたらどうすればいい?
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大阪法務局での供託事件数は、令和4年度の新規の供託が3万7806件あり、全国でも非常に多く活用されています。
供託とは債務の弁済が果たされなかった場合に、国が提供する解決手段のひとつです。会社の従業員の給与が差し押さえられてしまった場合、会社は「第三債務者」となりますが、このとき、供託を適切に利用することで債権者間のトラブルに巻き込まれることを回避できる可能性が高まります。
この記事では、従業員の給与が差し押さえられた場合における供託の手続きや注意点について、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。
1、従業員の給与が差し押さえ!? 供託とはどのような制度か
裁判所から、社員の給与を差し押さえる「債権差押命令」が送付されたら、差し押さえの対象となる金額は、社員に支払わないことが重要です。
また裁判所からの「債権差押命令」が複数届いた場合には、必ず供託をしなくてはなりません(義務供託)。まずは、供託とは何かの概要、供託の種類について説明します。
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(1)供託とは?
供託とは、債務の弁済、裁判上の保証等一定の法律上の目的を達しようとする手続きであり、国が関与して紛争を解決する方策のひとつです。
具体的には、金銭、その他の物を国家機関である供託所などに提出して、その財産の管理をゆだね、その供託所などを通じてそれらの物をある人に取得させることにより、上記の債務の弁済といった目的を達しようとする手続きをいいます。 -
(2)執行供託と供託の種類
供託を機能によって大別すると、冒頭のケースのように裁判所から差押手続によって給与などの金銭債権を差し押さえられたときの「執行供託」や「弁済供託」、「担保(保証)供託」、「没取供託」、「保管供託」などの種類に分けられます。
従業員の給与が差し押さえられた場合、会社は執行供託を利用することができます。執行供託とは、執行機関または執行当事者が「執行の目的物」を供託所に供託することをいいます。
この場合、執行の目的物とは「差し押さえの給与」になります。執行機関が目的物の保管と執行当事者への交付をすることで、執行手続の円滑化と第三債務者である会社の免責・保護になります。
執行供託の種類としては、民事執行手続に関するもの、保全執行手続に関するもの、滞納処分に関するもの、強制執行等と滞納処分との手続きの調整に関するもの等があり多岐にわたっています。
2、執行供託の基本的な手続き
裁判所から、従業員の給与を差し押さえる「債権差押命令」が送付され、従業員の給与が差し押さえられた場合には、会社としては供託するという方法を説明しました。
本章では、執行供託についての具体的な手続きなどを説明します。
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(1)手続きの流れ
① まず、会社の従業員に対して、従業員の債権者(たとえば、消費者金融など)が、従業員の給与について、差し押さえを行います。
金銭債権に対する強制執行がされた場合には、債権者による執行裁判所への申し立てを受け、執行裁判所は債権差押命令を発令し、債務者(従業員)と第三債務者(会社)に送達されることになります。
② 債権の差押命令は、第三債務者に送達されたときに生ずるとされ(民事執行法145条4項)、第三債務者は本来の債権者である執行債務者に対する弁済を禁止されます(同条1項)。つまり、会社は、差押命令が届くと従業員に差し押さえられた部分の給与は支払うことはできません。
③ 差押債権者は、債務者に差押命令が送達された日から1週間が経過したときは、被差押債権を自ら取り立てることができますが、第三債務者は債権者が取立命令を得て取り立てに来るまでは差押債権者に支払いをすることができず、債務の免責を得ることができません。
④ そこで、金銭債権に対する強制執行において、第三債務者は当該金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができるとされているのです。
⑤ 供託を行う場合、その他の金銭供託用の供託書(供託所にあります。)に必要な事項を記載して、供託物を添えて、後述する管轄の供託所で手続きを行う必要があります。 -
(2)管轄の供託所とは?
給与債権の場合、一般的に勤務先の「会社所在地を管轄する供託所に供託する」ことになります。これは、金銭債権に対する差し押さえにつき、第三債務者による執行供託では、供託は「債務履行地(給与の支払場所)」に所在する供託所が管轄供託所となるためです。
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(3)供託する金額の範囲
会社が給与を供託する際、金額については一定のルールがあります。
従業員の給与を、債権者が差し押さえるにあたっては、従業員の生活保障のため、その全額の差し押さえをすることはできません。
差し押さえができる金額の範囲は以下のとおりです。- ① 原則として、毎月の給与(基本給および諸手当。ただし、通勤手当を除く。以下同じです。)から所得税、住民税、社会保険料を控除した残額の4分の1
- ② ただし、毎月の給与から所得税や住民税、社会保険料を控除した残額の4分の3に相当する額が毎月払の場合は33万円を超える場合(つまり、毎月の給与から所得税などを控除した残額が44万円を超える場合)には、当該残額から33万円を控除した額
- ① 原則として、毎月の給与(基本給および諸手当。ただし、通勤手当を除く。以下同じです。)から所得税、住民税、社会保険料を控除した残額の4分の1
3、供託の注意点
従業員の給与が差し押さえられた場合の基本的な対応については、前述のとおりですが、ここでは、供託にあたって注意をすべきケースを解説いたします。
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(1)複数の差押命令が届いたときは義務供託になる
債権の差押命令が届いたら、従業員に対しては差し押さえられた対象の給与を支払うことはできず、差押命令が届いて1週間が経過すると、債権者が会社に対して取り立てることが可能です。この際、会社は、供託をしてもいいし(権利供託)、債権者の取り立てに応じて支払ってもかまいません。
しかし、複数の債権の差押命令が届いて競合した場合には、必ず供託をしなければならない(義務供託)ので注意が必要です。給与債権について、複数の差し押さえが送達され差し押さえが競合したときは、民事執行法により、その債権の全額に相当する金銭を、債務の履行地の供託所に供託しなければならないとされているのです。 -
(2)養育費に基づいた差し押さえは範囲が拡張される
債権者が差し押さえることができる従業員の給与は、原則として、毎月の給与から所得税や住民税、社会保険料を控除した残額の4分の1までです。
しかし、債権者の従業員に対する債権が、養育費などの扶養義務に関する債権である場合には、例外的に、毎月の給与から所得税や住民税、社会保険料を控除した残額の2分の1まで差し押さえが可能とされており、差し押さえができる範囲が拡張されていることにも注意が必要です。 -
(3)賞与、退職金も供託の対象
賞与や退職金も差し押さえの対象になっており、債権の差押命令が届いた場合には、執行供託の対象となります。
4、顧問弁護士のすすめ
債権の差押命令が届いた場合には、債権者からの取り立てが始まるまでの期間が短く、供託をすべきかどうかなど、迅速に判断していく必要があります。そのため、早急に相談を行い、回答を得ることができる日常的に相談ができる顧問弁護士を依頼することをおすすめします。
顧問弁護士であれば普段から会社の実情を把握していることから、より会社の実態に即した個別的な対応が可能であり、回答内容の質、という面からもメリットが高いといえます。
また、供託だけではなく、会社の契約書、就業規則、M&Aなどさまざまなことに会社の実情を踏まえた幅広い対応を行うことが可能です。
5、まとめ
供託にはさまざまな注意を要するルールがあり、従業員の差し押さえの際には早急な対応が必要になることも多いため、顧問弁護士への依頼は有効な手段といえます。
ベリーベスト法律事務所では、月額3980円からの顧問弁護士サービスで顧客ニーズに合わせた柔軟な顧問料を実現しております。供託への対応を含めた日頃からの顧問弁護士としての相談も可能です。
供託や顧問弁護士としての対応に実績のあるベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスへぜひお気軽にご相談ください。
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