交通事故で有給を使っても休業損害は受けられる?
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大阪府警が公表している交通事故の統計資料によると、令和3年に東大阪市内で発生した交通事故(人身事故)の件数は、1561件でした。東大阪地域では、東大阪市の交通事故件数が最も多い数字となっています。
交通事故で怪我をしてしまった場合には、怪我のため働けなくなってしまったり、通院のために仕事を休まなければならないこともあります。このような場合には、休業損害として減収分の損害を請求することが可能です。もっとも、仕事を休む際に有給を使った場合には、実際に収入が減ることはありませんが、このような場合も休業損害の請求ができるのでしょうか。
今回は、交通事故で有給を使った場合の休業損害の請求の可否について、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故で有給を取得しても休業損害はもらえる
交通事故で有給を取得した場合にも休業損害の請求はできるのでしょうか。
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(1)休業損害とは
交通事故の被害に遭うと、怪我のため仕事ができなくなったり、通院のために仕事を休まなければならない、ということもあります。このように仕事を休んだ場合には、その期間の収入を得ることができませんので、収入の減少という損害が生じてしまいます。このような損害を「休業損害」といい、交通事故と因果関係のある損害として、加害者に対して請求することができます。
なお、休業損害として請求することができる期間は、怪我が完治または症状固定と診断された時点までです。後遺障害が生じた場合には、症状固定日以降の減収分については、逸失利益として請求することができます。 -
(2)有給を取得しても休業損害の請求は可能
仕事を休んだとしても、有給休暇を取得した場合には、その期間の給料が支払われることになりますので、収入の減少という損害が実際には生じません。このような場合でも休業損害を請求することができるのでしょうか。
有給休暇を取得した場合には、収入の減少という損害が実際には生じませんが、本来労働者が自由に使うことができる有給休暇を交通事故の怪我のために使ってしまうことになります。そして、有給休暇は、それ自体が財産的価値を有するものですので、有給休暇を使うということは、その財産的価値を失うことと等しい状態となります。そのため、交通事故による、怪我の治療などのために有給休暇を使用した場合は、それにより有給休暇を失ったという損害が生じたものといえますので、有給休暇を取得した場合でも休業損害の請求ができます。
2、交通事故で有給を取得して休業損害がもらえないケース
交通事故で有給を取得した場合でも、原則として休業損害の請求はできます。しかし、以下のようなケースでは、その請求ができない場合もありますので注意が必要です。
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(1)私的目的で有給を取得した
交通事故の損害として休業損害を請求するためには、事故と有給取得との間に因果関係があることが必要になります。
交通事故後に有給休暇を取得したとしても、家族で旅行に行くためのものであった場合など私的目的で取得した場合には、交通事故との因果関係が認められませんので、休業損害の請求はできません。 -
(2)交通事故から時間が経過したあとでの有給取得
交通事故の直後であれば、怪我の影響によって仕事ができないこともありますので、有給休暇を取得したとしても基本的には交通事故との因果関係が認められます。
しかし、事故から相当期間が経過したあとに有給休暇を取得した場合には、交通事故のとの因果関係が争われることがあります。症状もだいぶ落ち着いてきている状況で、長期間の有給休暇を取得したようなケースでは、合理的な説明ができなければ因果関係が否定される可能性が高いでしょう。
3、交通事故における、休業損害の計算方法
交通事故の怪我が原因で仕事を休む場合には、どのような方法で休業損害を計算すればよいのでしょうか。以下では、会社員の方が、休業損害を請求するときの計算方法を説明します。
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(1)休業損害の算定基準は3つある
休業損害を算定する基準は
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準
という3つです。
自賠責保険基準とは、自賠責保険会社が用いている算定基準です。自賠責保険基準は、3つの基準の中ではもっとも低い基準となります。
任意保険基準とは、任意保険会社が用いている算定基準です。任意保険会社ごとに設定されている基準であり、外部に公表されていない基準であるため、詳細な計算方法は不明です。一般的には、自賠責保険基準と裁判所基準の間くらいの基準となります。
裁判所基準とは、裁判をしているときに裁判所が用いる基準です。弁護士が示談交渉の際に用いる基準でもあることから、弁護士基準とも呼ばれています。裁判所基準は、3つの算定基準の中ではもっとも高い水準となります。 -
(2)3つの基準で、休業損害の計算式はどう違う?
任意保険基準の計算式は明らかにされていないため、以下では、自賠責保険基準と裁判基準で休業損害を計算するとどうなるかについて、説明します。
① 自賠責保険基準
以下は、この基準での休業損害の計算式です。- 1日あたり6100円×休業日数
※ただし、令和2年3月31日以前に発生した事故は、1日あたり5700円で計算
自賠責保険基準では、迅速な支払いを行うという観点から、被害者の実際の収入に関係なく、休業損害を算定する方法が採用されています。
そのため、実際の収入が1日あたり6100円を下回る場合であっても、1日あたり6100円で計算するため、ご自身の収入が6100円より低ければ、自賠責保険基準で計算したほうが、裁判所基準で計算した時も金額が高い、ということもあるでしょう。
もっとも、実際の収入額が1日あたり6100円を超えると証明できれば、1日1万9000円を限度として、実収入で休業損害を計算してもらうこともできます。
② 裁判所基準(弁護士基準)
以下は、この基準での休業損害の計算式です。- 1日あたりの基礎収入×休業日数
1日あたりの基礎収入としては、事故前の3か月分の給与を平均して求めるのが一般的な方法です。ここで利用される給与の金額は、実際の手取り額ではなく手当などをすべて含めた控除前の総支給額です。ただし、給与額の変動が大きい職種である場合には、6か月平均や1年平均の給与額を利用することもあります。
なお、3か月分の給与を平均する際の日数については、暦日数をベースにするのか、勤務日をベースにするのかによって1日あたりの基礎収入額が大きく変わってきます。勤務日をベースに計算をする方が、1日あたりの基礎収入額が高くなりますので、被害者としては、勤務日ベースでの計算を求めていくようにしましょう。 - 1日あたり6100円×休業日数
4、交通事故について弁護士に依頼するメリット
交通事故の解決を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットが生まれます。
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(1)損害賠償額が増額する可能性が高くなる
交通事故の損害額を算定する基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準という3つの基準が存在しています。これは休業損害以外にも慰謝料などの算定でも用いられる基準です。このうち裁判所基準がもっとも高い基準になりますので、被害者としては、裁判所基準によって損害額を算定したいと考えるのが当然でしょう。
しかし、裁判所基準を利用するためには、裁判を起こすか、弁護士に示談交渉を依頼しなければなりません。被害者自身で保険会社と示談交渉をする場合に、裁判所基準を利用することは非常に困難です。
どの基準を採用するかによって、被害者の方に支払われる損害賠償額は大きく変わってきますので、少しでも多くの賠償額を獲得したいという場合には、弁護士に依頼をすることをおすすめします。 -
(2)保険会社と直接交渉する必要がなくなる
交通事故によって怪我をしてしまった場合には、怪我の治療に加えて、保険会社との交渉も行わなければなりません。会社員の方では、平日に保険会社と交渉をする時間的余裕もありませんし、事故によるストレスで精神的な余裕もないといえるでしょう。
このような場合でも、弁護士に依頼をすれば、面倒な保険会社との交渉をすべて弁護士に任せることができます。弁護士は、示談交渉の専門家ですので、被害者の方に最大限有利な条件で示談を成立させることができるように、交渉を進めます。
適切な損害額の支払いを受けることは、被害回復の観点から非常に重要です。不利な条件で示談をしてしまうリスクを回避するためにも、保険会社との示談交渉は弁護士にお任せください。
5、まとめ
交通事故によって、仕事を休むことになった場合に有給を取得することもあるでしょう。このような有給休暇取得についても、基本的には休業損害に含めて請求をすることができます。ただし、有給休暇の取得目的や取得時期によっては、交通事故との因果関係を否定される可能性もありますので、不安な方は弁護士に相談をすることをおすすめします。
交通事故の被害にあってお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスまでお気軽にご相談ください。
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