いらない不動産だけ相続放棄できる? 手続きや分割方法の注意点

2024年06月20日
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いらない不動産だけ相続放棄できる? 手続きや分割方法の注意点

大阪府の人口動態総覧よると、令和3年度の東大阪市では5940名の方が亡くなりました。それにともなって、多くの方が相続手続きをされたと推測されます。

相続は、開始してはじめて借金や不要な土地などのマイナスの財産に気づくケースが少なくありません。「いらない不動産だけを相続放棄することができないか」と悩む方もいますが、原則として相続放棄により特定の財産だけを放棄することはできません。

ただし、相続土地国家帰属法や限定承認などの制度を活用すれば、いらない土地だけを処分することや特定の財産を放棄できる可能性があります。今回は、いらない不動産を処分したい場合にどのような方法をとればよいか、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。

1、いらない不動産だけ相続放棄できるか?

相続すると、プラスの預貯金やマイナスの借金など、原則すべての財産を受け継ぐことになります。まずは相続放棄の基本的な知識を押さえた上で、いらない不動産を手放す方法について確認していきましょう。

  1. (1)原則、いらない不動産だけを相続放棄できない

    原則として、いらない不動産だけを相続放棄することはできません

    相続には、単純承認、相続放棄、限定承認の3つの方法があり、すべての相続財産を相続する「単純承認」か、放棄する「相続放棄」が基本的な相続になります。そして、一定の手続きをした場合に限り、「限定承認」としてプラス財産からマイナス財産を清算して、残りを相続するという方法をとることができるのです。

  2. (2)いらない不動産だけ手放す方法

    相続放棄はできなくても、いらない不動産を手放す方法はあります。以下、可能な方法はないか確認していきましょう。

    • 近隣の人に譲る
      相続する不動産が遠隔に合った場合、近隣の人に譲ることができれば、手放すことができます。近隣の人が購入するか、無償で引き受けてくれるかは需要次第ですが、まずは地域の不動産会社に相談してみましょう。

    • 市町村への寄付
      次に市町村へ寄付して、手放すことが考えられます。立地によっては公園や公共施設の土地として活用されるケースもあります。しかし、市町村に寄付を受け取る義務はないため、不要と判断されれば不動産を受け取る可能性は低いといえます。

    • 相続土地国庫帰属法を利用する
      2023年「相続土地国庫帰属法」が制定されました。この法律を利用すれば、相続財産の土地を国庫に帰属させることができます。つまり、いらない不動産の中でも土地であれば手放すことができるのです。この相続土地国庫帰属法については、3章 で詳しく説明します。

2、相続放棄や限定承認の方法と期限

前述の通り、相続方法には「単純承認」「相続放棄」「限定承認」という3つの方法があります。相続に関する基礎知識として、各相続方法を確認しておきましょう。

  1. (1)単純承認

    単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産もすべての財産を相続することをいいます。単純承認する際には、借金などの負債はないか、不動産や株はどの程度保有していたかなど、すべての相続財産について調査・確認することが大切です。もし、調査の結果、借金額の方が多い場合には、次の相続放棄を考えてみましょう。

  2. (2)相続放棄

    相続放棄とは、すべての財産の相続を放棄することをいいます。相続放棄をすると、借金などを引き継ぐ必要がない反面、不動産や預貯金、現金などの財産も相続することができません。

    相続放棄をするには、相続開始から3か月以内に裁判所に相続放棄の書類を提出しなければなりません。もし、3か月を過ぎてしまうと、単純承認したとみなされてしまいます。また、相続放棄後に相続財産を私的に使ってしまったケースや、隠した場合も単純承認したものをみなされますので注意が必要です。

  3. (3)限定承認

    限定承認とは、プラスの財産からマイナスの財産分を清算して、相続財産がプラスになれば相続するという方法です。つまり、相続財産のプラス部分のみを相続できるというわけです。

    限定承認は、メリットが大きいように感じますが、その代わりに手続きが複雑です。まず、相続人全員が限定承認する必要があります。すべての手続きが終わるまで相続人全員が相続財産の処分を行うことができません。また、相続開始から3か月以内に申し立てる必要があります。

    そのため、限定承認を考えている場合には、相続人の調査や相続財産の調査・管理などについて早めに弁護士に相談することをおすすめします

3、「相続土地国庫帰属制度」とは

「相続土地国庫帰属法」の制度を利用することで、いらない土地を手放せる可能性があります。相続土地国庫帰属法の概要や、対象の条件、対象とならない土地について詳しく解説します。

  1. (1)「相続土地国庫帰属法」でいらない土地を手放せる

    相続土地国庫帰属法は令和5年4月27日に施行されました。「相続した土地があるけど遠くに住んでいて使う予定がない」「土地管理の負担が重い」という相続人への救済措置として作られた法律です。

    また、将来的に所有者がわからない土地が発生させないため、土地を取得した相続人に国庫へ帰属させるという目的もあります。この制度を利用することで、いらない土地を手放せる可能性があります。

    参考:相続土地国庫帰属制度について

  2. (2)「相続土地国庫帰属法」の対象となる土地

    もっとも、申請したらどんな土地でも手放せるわけではありません。土地の所有権を放棄するためには、負担金の支払いが必要です。負担金の額は、土地の条件によって異なりますが、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額とされています。

    法務省が公表している負担金算定の具体例は以下の通りです。

    負担金算定の具体例
    宅地 面積にかかわらず20万円
    ※ただし、都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている地域内の宅地については、面積に応じて算定
    田畑 面積にかかわらず20万円
    ※ただし田畑の要件によっては面積に応じて算定
    森林 面積に応じて算定
    その他(雑種地、原野等) 面積にかかわらず20万円
    参考:「相続土地国庫帰属制度の負担金」(法務省)

    さらに審査手数料として、土地一筆あたり1万4000円がかかります。かかる金額と土地を手放すメリットを比較して、どちらにするか慎重に考えてみましょう。

  3. (3)「相続土地国庫帰属法」で放棄できない土地

    「相続土地国庫帰属法」でも放棄できない土地もあります。そこで、申請の段階で直ちに却下となる主な4つのケースについて解説します。

    1. ① 建物が建っている土地
      建物が建っている土地は、「相続土地国庫帰属法」の対象外です。そのため、ビルや住宅、納屋などの建造物がある場合は、建物を取り壊して、更地にしてから申請することになります。

    2. ② 土壌汚染
      土壌汚染がある土地は放棄することができません。

    3. ③ 担保権や使用収益権が設定されている土地
      担保権、つまり銀行のローンなどで抵当権が設定されている土地も手放すことができません。ローンを完済するなどして抵当権を抹消してから申請する必要があります。
      また、賃借権などの使用収益権が設定されている土地も手放すことはできません。ト

    4. ④ その他
      その他、通路などで他人に利用されている土地や、所有権など権利関係を争っている土地についても対象外です。

4、相続の注意点と弁護士に相談すべきケース

財産を相続する際には注意しなければならないことが複数あります。後々、トラブルが発生するのを防ぐためにも確認しておきましょう。

  1. (1)いらない不動産は売却などで処理する

    いらない不動産も含めて相続した場合は、売却を考えてみましょう。また、古家が建っている場合には建物を建て壊し、更地にすることで「相続土地国庫帰属法」の対象とならないか、検討することも必要です。

    もし相続した建物が崩壊して、他人に怪我を負わせた場合には、損害賠償を請求される可能性があります。放置せず、早めの対策を心がけましょう

  2. (2)弁護士に相談すべきケース1│マイナスとプラスの財産が混在

    マイナスの価値の不動産とプラスの財産がある場合、まずは相続財産の調査をして全容を明らかにする必要があります。

    相続における財産調査は、預貯金、不動産、債務、株式や保険など多岐にわたるため、弁護士に調査を依頼して適切なアドバイスをもらうことが重要になります。実は借金もたくさんあったことが判明するケースもあり、その場合は限定承認を利用するなど、損を抱え込まないためのアドバイスを受けつつ、弁護士を頼ることが得策といえるでしょう

  3. (3)弁護士に相談すべきケース2│相続人同士が不仲

    相続人が複数いて不仲なため話し合いが困難である場合も、弁護士に相談することをおすすめします。

    相続人同士は、故人の生前は付き合いが良好だったのに、相続をきっかけに今までの不満が出てきて、家族・親族間でトラブルに発展することがよくあります。そのため、相続人が複数いる、もともと仲が良くない親族がいる、などの場合は、弁護士に仲介を依頼し、冷静な第三者として客観的なアドバイスを受けつつ、正確な相続配分をサポートしてもらう方がよいでしょう

  4. (4)弁護士に相談すべきケース3│隠し子がいた

    被相続人に隠し子がいた場合にも弁護士に相談しましょう。隠し子の発覚は家族のショックも大きく、相続で揉めてしまう可能性があります。また相続財産が高額になるほど、トラブルに発展する可能性が高くなるでしょう。

    そのため、もし隠し子が発覚した場合は、そもそも相続人は何人いるのか・相続財産はどれだけあるか、一人あたりいくらになるのか、しっかり調査してもらう必要があります。裁判に発展すると解決までに長期間かかるおそれがあるため、争いが大きくなる前に弁護士に相談するようにしましょう

5、まとめ

遠方にある実家や田舎の土地など、相続しても自分では利用できない土地もあります。いらない土地を相続してしまうと、毎年固定資産税や管理費ばかりかかり、負担が積み重なっていくケースも少なくありません。

相続財産にいらない不動産があった場合は、何らかの処分ができないか、弁護士に相談してみましょう。ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスでは、相続問題の解決実績がある弁護士が最善の解決策を提案させていただきます。相続問題でお困りの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています