傷害罪の時効は何年? 弁護士が解説

2022年04月25日
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傷害罪の時効は何年? 弁護士が解説

大阪府警察が公表している犯罪統計資料によると、令和2年の大阪府内における傷害罪の認知件数は2225件であり、そのうち検挙された件数は1875件でした。この統計資料からは、いわゆる粗暴犯と呼ばれる犯罪類型のうち傷害罪が半数以上を占めていることがわかります。

ついカッとなって人を殴ってしまったり、お酒で酔ってけんかをしてしまったりすると傷害罪という犯罪が成立する可能性があります。過去に人に怪我をさせてしまったという経験のある方もいるかもしれませんが、そのような方は傷害罪がいつ時効になるのかが気になるところでしょう。傷害罪の時効を考える場合には、刑事事件としての時効だけでなく、民事事件としての時効についても押さえておく必要があります。

今回は、傷害罪の時効について、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「令和2年中の犯罪統計(確定値)」(大阪府警察))

1、傷害罪とは

傷害罪とはどのような犯罪なのでしょうか。以下では、傷害罪に関する基本的事項について説明します。

  1. (1)傷害罪の概要

    傷害罪とは、わかりやすいものだと加害者の暴行により被害者に怪我を負わせることによって成立する犯罪です(刑法204条)。同じく粗暴犯とされている暴行罪との違いは、被害者が怪我をしたかどうかという点です。暴行罪よりも傷害罪の法定刑が重くなっている理由は、被害者に怪我を負わせるという重大な結果を引き起こしたことへの非難が挙げられます。なお、怪我の有無に関しては、医師が作成する診断書などによって、判断されることになります。

    傷害罪は、ちょっとしたきっかけで誰でも犯罪の加害者および被害者になる可能性がありますので、比較的身近な犯罪であるといえるでしょう。

  2. (2)傷害罪の成立要件

    傷害罪が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。

    ① 傷害罪の実行行為
    傷害罪の実行行為は、暴行などの人の身体に対する、不法な有形力の行使によって行われるのが一般的です。たとえば、被害者を殴る、蹴る、たたく、引っかく、押し倒すなどの行為は、傷害罪の実行行為である暴行に該当します。

    もっとも、傷害罪の場合には、傷害を与える方法が決められているわけではありませんので、上記の有形力の行使以外にも無形的方法による傷害もあり得ます。たとえば、嫌がらせ電話によって心身を疲労させる行為や、連日連夜大音量でラジオの音声や目覚まし時計のアラームを鳴らし続け、精神的ストレスを与えることも傷害罪の実行行為にあたり得ます

    ② 傷害の結果
    傷害罪が成立するためには、その行為によって、傷害の結果が生じることが必要です。傷害の結果が生じたかどうかが暴行罪との分かれ目になりますので、重要なポイントとなります。

    傷害の意義については、学説上は争いがある部分ですが、判例では、人の身体の生理的機能を害することを傷害と定義しています。したがって、殴る、蹴るなどの暴行によって打撲、捻挫、切創(切り傷のこと)、骨折などの怪我をした場合には当然傷害にあたることになりますが、精神的ストレスによるPTSDになった、睡眠障害が生じたなども傷害にあたります

    なお、人の髪の毛を勝手に切ったという場合については、判例は、傷害の結果が発生していないため傷害罪ではなく、暴行罪にあたると判断しています。

    ③ 行為と結果との間の因果関係
    傷害罪が成立するためには、その行為と、生じた傷害に、因果関係があることが必要になります。人を殴って怪我をさせたという場合には、因果関係は明白ですが、精神的ストレスによってPTSDになったという場合には、他の要因によってPTSDになった可能性もありますので、因果関係の有無が争われることも少なくありません。

    ④ 故意
    傷害罪が成立するためには、故意が必要になります
    不法な有形力の行使の場合、傷害罪の故意とは、傷害を認識することまでは要求されず、暴行行為の認識さえあれば足りると考えられています。そのため、相手を怪我させる認識がなかったとしても、相手を殴ることを認識しており、結果として相手を怪我させてしまったのであれば、過失傷害(刑法209条)ではなく傷害罪が成立します。

  3. (3)傷害罪の法定刑

    傷害罪の法定刑は、「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」と規定されています。暴行罪(刑法208条)の法定刑が「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と規定されているのと比べると、傷害罪の法定刑の方が非常に重いことがわかります。

    実際の量刑については、法定刑の範囲内で、暴行の態様、被害の結果、被害弁償の有無などを考慮して決められています。

2、公訴時効とは

多くの犯罪には、「公訴時効」という期間が定められています。公訴時効とはどのようなものなのでしょうか。以下で詳しく説明します。

  1. (1)公訴時効とは

    公訴時効とは、犯罪後に検察官から公訴を提起されることなく、一定期間が経過した場合には、公訴権が消滅するという制度です。簡単にいえば、刑事事件における時効だと理解しておけばよいでしょう。

    犯罪から長期間が経過すると証拠が無くなる可能性が高いために起訴して正しい裁判を行うことが困難になることや、その犯罪をしたことによる社会的影響力が弱まることなどが、公訴時効が定められている理由です。

    公訴時効の期間については、法定刑を基準にして1年、3年、5年、7年、10年、15年、20年、25年、30年と定められていますが、法定刑の上限が死刑である犯罪(たとえば、殺人罪)については、公訴時効はありません。

    以前は殺人罪などの死刑が法定刑の上限である犯罪については、公訴時効が25年と定められていましたので、凶悪な殺人犯であっても、25年間逃げ切れば処罰されることはありませんでした。しかし、人の命を奪った殺人などの犯罪については時間の経過により一律に処罰されなくなるのは不当であるという批判があり、平成22年の法改正によって、公訴時効が廃止されることになりました。

  2. (2)公訴時効の起算点

    公訴時効の期間は、犯罪行為が終わったときからカウントをします。一般的な期間計算の場合には、初日を算入しませんが、公訴時効の制度は被疑者の利益のために定められたものですので、初日を1日目として計算をします。

    「犯罪行為が終わったとき」がいつなのかについては、犯罪の種類によって考え方が異なります。未遂犯の場合には、その行為が終了した時点となりますが、結果犯の場合には結果が発生したときが起算点となります。また、傷害致死罪などのような、結果的に罪が重くなる犯罪については、中間的な結果ではなく最終的な結果(傷害致死の場合には傷害という結果ではなく死亡という結果)が発生した時点が起算点になります。

  3. (3)公訴時効の停止

    公訴時効は、一定の事由がある場合には、その間はカウントが停止し、公訴時効が完成することはありません。公訴時効が停止する事由としては、以下のものが挙げられます。

    • 公訴の提起
    • 共犯者についての公訴提起
    • 犯人が国外にいる場合
    • 犯人が逃げ隠れしているため、有効に起訴状謄本の送達、または略式命令の告知ができなかったとき

3、傷害罪の公訴時効

公訴時効の期間は、犯罪の法定刑の上限を基準にして決められています。傷害罪の法定刑の上限は、15年とされていますので、傷害罪の公訴時効期間は、10年となります(刑事訴訟法250条2項3号)。したがって、傷害という結果の発生から10年を経過すると、その間に公訴時効を停止する事由がない限りは、傷害罪で処罰されることはなくなります。
なお、告訴期間という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、告訴期間が制限されるのは親告罪にあたる犯罪のみです。傷害罪は、親告罪にはあたりませんので、公訴時効の期間内であればいつでも告訴をすることができます。

4、民事責任の時効

傷害罪に関しては、刑事事件における時効だけでなく、民事事件に関する時効についても理解しておく必要があります。

  1. (1)民事責任の時効とは

    他人に怪我をさせてしまったということは、被害者は、治療費などの負担をしなければならず、怪我の程度によっては後遺症が生じてしまうこともあります。このように、傷害事件では、被害者に対して一定の損害が生じますので、被害者は、それを加害者に対して損害賠償請求という形で請求することができます。これが傷害罪の民事責任です。

    しかし、民事責任についても刑事事件と同様に、一定の期間が経過することによって損害賠償請求権が時効により消滅することがあります。

  2. (2)傷害罪の場合にはいつが時効?

    では、傷害罪の場合には、いつ時効となるのでしょうか。傷害罪のように他人に危害を加えて損害を与えた場合には、民法709条の不法行為に基づいて損害賠償請求されることになります。

    不法行為の時効については、被害者が損害および加害者を知ったときから3年と定められていますが(民法724条)、人の生命または身体を害する不法行為の場合には、特別な定めがあります。傷害罪のように人の身体を害する行為によって損害が生じた場合には、被害者が損害および加害者を知ったときから5年です(民法724条の2)

    通常の不法行為に比べて、生命または身体を害する不法行為の場合には被害者をより保護する必要があるため、時効期間が長くなっています。

5、まとめ

傷害罪の刑事事件に関する時効は10年であるのに対して、民事事件に関する時効は5年となっています。刑事事件と民事事件で異なる期間が定められていますので、民事事件の時効が来たからといって、刑事事件で処罰されることが無くなるわけではありません。

「過去の傷害行為によって処罰されないか」と不安を抱いている方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。公訴時効前であれば被害者が告訴をする可能性もありますので、早めに示談などの対応をすることが大切です。

傷害罪などの刑事事件でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています