不起訴相当とは? 定義や検察審査会の流れ、過去の事例を紹介

2024年08月15日
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不起訴相当とは? 定義や検察審査会の流れ、過去の事例を紹介

テレビやネット記事などで刑事事件に関する「不起訴相当」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。令和5年10月には、大阪第四検察審査会が「不起訴相当」とする議決書を公表したことを覚えておられる方もいるかもしれません。

不起訴相当とは、検察審査会の行う一定の決議で、“検察官が起訴しないと判断したのは妥当である”と認めることです。

本コラムでは、起訴相当と不起訴相当の違い、検察審査会の流れや具体的な事例について、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。


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1、不起訴相当とは?

  1. (1)不起訴相当の定義

    「不起訴相当」とは、検察審査会が行う議決のひとつで、「公訴を提起しない処分を相当と認めるとき(検察審査会法39条の5第3号)」を指します。端的にいえば、「検察審査会が、不起訴は妥当だと認める」議決です。

    検察審査会とは、検察が不起訴にした判断が本当に妥当だったかを、有識者からくじで選ばれた11人が審査するという制度です(詳細は2章で後述)。

    原則として、刑事事件を起訴する権限があるのは検察官のみです。検察審査官の目的は、この検察官が、一般国民の良識を反映させて適正な運営を図っているかを判断するために設置されています。

    検察審査会の手続きについては、「検察審査会法」という法律によって規定されています。

    検察審査会の審査後には以下の3つの議決を行うことができる旨が規定されています(検察審査会法第39条の5)。

    • ① 起訴相当
    • ② 不起訴不当
    • ③ 不起訴相当


    以下で、①②の規定について解説します。

  2. (2)起訴相当・不起訴不当との違い

    起訴相当と不起訴相当の違いは、文字通り、検察審査会が「起訴が妥当」「不起訴が妥当」とする判断内容です。検察審査会法に基づき、解説します。

    ① 起訴相当の議決とは
    検察審査会が「起訴を相当と認めるとき」に行う議決です(検察審査会法第39条の5第1号)。

    この議決がなされたときは、検察官は速やかにこの議決を参考にして公訴を提起すべきかを検討したうえ、起訴または不起訴の処分をする必要があります(同法第41条1項)。

    検察官が、議決を受けて再度不起訴処分をした場合には、検察審査会は再びこの処分の当否を審査します(第二段階の審査)。

    ② 不起訴不当の議決とは
    「公訴を提起しない処分(不起訴)を不当と認めるとき」に行う議決です(同法第39条の5第2号)。

    検察審査会議でこの議決がなされた場合、検察官は起訴または不起訴をすべきか否かを判断する義務を負っています(同法第41条2項)。

    「不起訴不当」の場合には、その議決を受けてもなお、再度検察官が不起訴としたとしても、その不起訴については2度目の審査はしません。

    検察審査会による第二段階の審査があるのは、起訴相当の議決がなされて、検察官が再び不起訴処分を行った場合のみです。

2、検察審査会の流れ

  1. (1)そもそも検察審査会とは?

    検察審査会は、検察官の起訴が「民意を反映させているか」「不当な不起訴処分になっていないか」を審査するために、全国の地方裁判所や地方裁判所の支部がある場所に設置されています

    刑事事件について起訴する権限は、原則として検察官にしかありません。そのため、犯罪の被害者等が刑事告訴を行って犯人に刑罰を科すことを求めたとしても、検察官の判断として不起訴・起訴猶予処分がなされてしまう可能性があります。

    検察官の判断によって、犯罪被害者が泣き寝入りする事態が起こるおそれを防ぐという役割を検察審査会はもっています。

    なお、検察審査会は、検察官の不起訴判断を不服とする者が申し立てることによって、審査を開始することができます

  2. (2)検察審査会の審査の流れ

    審査の流れについては、以下のようになります。

    • ① 申し立てまたは職権による審査の開始
    • ② 検察審査会議による審査・議決
    • ③ 第二段階の審査


    ① 申し立てまたは職権による審査の開始
    検察審査会への審査は申し立てによって開始します。

    検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その検察官の属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会にその処分の当否の審査の申し立てをすることができます。
    検察審査会への審査申立ができるのは、主に次の方です。

    • 告訴人
    • 告発人
    • 犯罪の被害者
    • 被害者が死亡した場合はその配偶者・直系血族・兄弟姉妹
    など


    また、申し立てと比較すると件数は少ないですが、検察審査会が自ら得た情報に基づいて職権で審査を開始することもできます。

    なお審査申立は不起訴処分が対象となっているため、「殺人で起訴すべきであるのに傷害致死罪で起訴した」といった場合には、申し立ての対象からは外れてしまいます

    また、告訴・告発が受理されていない事件については、不起訴処分自体が発生しえないため、告訴人・告発人は審査を申し立てることはできません。

    ② 検察審査会議による審査・議決
    検察審査会では、検察庁から取り寄せた事件の記録や申立人が提出した資料などを検討して、不起訴処分の当否を判断しますこの審査は非公開です

    審査においては、事件の記録以外にも、必要資料の提出や、検察官の意見を求めることができます。また、公務所や公私の団体に必要事項を照会し、申立人や証人に対して尋問を行うこともできます。

    証人が検察審査会の呼び出しに応じないときは、当該検察審査会の所在地を管轄する簡易裁判所に対して証人の召喚を請求することができます。この場合、裁判所は召喚状を発しなければなりません。証人が正当な理由なく召喚に応じない場合には「10万円以下の過料」に処されます。

    法律に関する専門的な知見を補う必要がある場合には、弁護士の中から事件ごとに1名の「審査補助員」を委嘱して必要な助言を求めることもできます。

    審査補助員は、法令やその解釈の説明、事件の事実・法律上の問題点の整理、整理した問題点に関する証拠の整理、その事件の審査に関して法的観点から必要な助言を行うことを職務としています。

    検察審査会は、次のうちどれかの議決をしなければいけません。

    議決の種類 内容 議決の意味
    起訴相当 起訴を相当とする議決 刑事裁判を起こすべき
    不起訴不当 公訴を提起しない処分を不当とする議決 さらに詳しく捜査して検討するべき
    不起訴相当 公訴を提起しない処分を相当とする議決 刑事裁判をしない処分は適当である

    検察審査会の議事は、過半数で決めることになっています。したがって、検察審査員11名中6人以上の多数決で決定します。

    ただし、起訴相当の議決(および第二段階での起訴議決)をする場合は、慎重を期するため検察審査員8人以上の賛成が必要です。

    不起訴相当となった場合には、検察官に起訴されることはないため、事件は終了します。

    なお、不起訴不当の議決でも、必ずしも起訴につながるとは限りません。再捜査しても新事実や新しい犯罪の証拠をつかめなかったとして、再び、検察官が不起訴処分を下すこともあります。

    2度目の不起訴処分が出れば、3度目はありません。事件は終結し、刑事裁判にかけられる可能性はなくなります。

    ③ 第二段階の審査
    起訴相当の議決に対して、検察官が改めて不起訴とした場合や法定の期間内に処分しない場合、第二段階の審査が実施されます。

    第二段階の審査を終えた場合には、「起訴すべき旨の議決(起訴議決)」または「起訴議決に至らなかった旨の議決」のいずれかの議決をします。

    「起訴議決」がなされた場合は、裁判所によって指定された弁護士が、検察官の代わりに起訴して公判を担当することになります

3、不起訴相当の具体的な事例2つ

裁判所が公表している「検察審査会の受理件数・議決件数等」によれば、2023年において検察審査会により起訴・申し立て等がされた審査事件は、延べ2705件でした。

過去に不起訴相当であると検察審査会が判断した事例として、以下のようなものがあります。

【1回目は「起訴相当」2回目で「不起訴相当」となった事例】
関西電力が原発立地自治体の町議側から相場より高い賃料で倉庫を借りていたことが特別背任にあたるとして刑事告発されたものの、大阪地検特捜部は嫌疑不十分として不起訴処分としました。

検察審査会は、1回目の議決において「起訴相当」の議決を出していたものの、再度検察官は不起訴処分としました。この処分を受けて第二段階の審査が行われましたが、起訴決議には至らないとして「不起訴相当」の議決がなされ、強制起訴されることはなくなりました。


【3回「不起訴不当」決議がされたが検察が4回「不起訴」と判断した事例】
岡山市の市道で当時19歳の女子短大生が自転車で走行中に軽乗用車ではねられ亡くなった事件です。被害者の急な進路変更があったとして業務上過失致死罪については、不起訴となったため、被害者の両親が審査申立を行いました。

この事件では、検察審査会で3度の不起訴不当決議が出されたにもかかわらず、それを受けて検察が4回不起訴の判断をしました。

4、不起訴相当の影響とその後の展開

検察審査会で不起訴相当の議決がなされた場合、その事件について刑事責任を問われることはありません

これに対して、不起訴不当の議決は、「検察官の不起訴処分には納得できない。もっと詳しく捜査した上で起訴・不起訴の処分をすべきだ」という判断になるため、検察官は再度の捜査を行い、改めて起訴・不起訴の判断を行うことになります。

起訴相当の決議は、「検察官の不起訴処分は間違っている。起訴するべきだ」という判断になるため、この場合も検察官は再度の捜査を行い、改めて起訴・不起訴の判断をする必要があります。

ただし、起訴相当・不起訴不当の議決がなされたとしても必ずしも検察官により起訴されるとは限りません。

起訴相当・不起訴不当の議決がされた事案のうち、起訴される事件は全体の2割弱程度です。仮に上記のような議決があったとしても、新たな証拠や事実が判明しない限り検察官の不起訴処分を覆すには一定のハードルがあると考えられます。

5、まとめ

「不起訴相当」とは、検察審査会における審査のひとつです。前述の通り、不起訴相当になれば、刑事裁判にかけられることはなく、そのため、前科がつくこともありません。

告訴の可能性など、刑事トラブルを抱えている場合には、まずはベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスまでご相談ください。刑事事件の解決実績のある弁護士が重すぎる罪に問われないようサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています