クーリングオフできないものがあるって本当? できない時の対処法とは
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大阪市の報道発表資料によると、2020年中に大阪市消費者センターに寄せられた消費生活相談は、合計2万857件に上りました。そのうち1046件は、消費者センターによるあっせんが実施され、うち841件は解決に至っています。
業者の勧誘に乗って商品やサービスを購入したものの、「やっぱり要らない」と思い直し、契約をキャンセルしたいケースもあろうかと思います。そんな時に、無条件で契約を解除できる、消費者の味方となる方法が「クーリングオフ」です。もっとも、クーリングオフは、取引の仕方によってはできない場合もあるので注意が必要です。
今回は、購入した商品・サービスをクーリングオフできる場合やできない場合、また、クーリングオフできない場合に利用できる他の救済方法などについて、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「報道発表資料 令和2年度に大阪市消費者センターに寄せられた消費生活相談についてとりまとめました」(大阪市))
1、クーリングオフとは?
クーリングオフとは、商品・サービスを購入したときに、一定の熟慮期間内であれば無条件に解除できる制度をいいます。例えば、訪問販売員が自宅にまで来て商品を押し売りされ、思わず購入してしまった場合、クーリングオフによりこれを解除しうるのです。
クーリングオフ(Cooling Off)は、不本意に商品・サービスを購入してしまった消費者に、再考の機会を与える救済手段として認められています。クーリングオフが認められる場合とは、消費者が不本意な取引をしてしまいかねないような場合です。訪問販売で物を購入した場合にクーリングオフが認められるのも、消費者が不本意な取引をしかねない場合だと類型的に考えられているからです。
クーリングオフは、主として特定商取引法(特定商取引に関する法律)に規定がありますが、その他個別の取引を規程する法令に規定されている可能性があります。クーリングオフの対象となる取引かどうかは、個別に法令を確認する必要がありますが、概ね以下のような取引が対象となっています。
事業者が自宅に訪問して商品・サービスの購入をさせようとする取引のことです。
キャッチセールスなども含みます。現物まがい商法といって、購入者に対して商品を販売するものの、商品現物を交付せず、預かり証などしか交付しないで人をだますような場合もありますのでご注意ください。
● 電話勧誘販売(特定商取引法24条)
事業者が消費者に電話で商品・サービスの購入を勧誘し、契約する取引です。
● 特定継続的役務提供(特定商取引法48条)
長期間・継続的にサービスを提供する取引のうち、法律で具体的に規定された7つの類型に該当する取引です。① エステティック関連、② 美容医療、③ 語学教育、④ 家庭教師等、⑤ 学習塾等、⑥ パソコン教室等、⑦ 結婚相談所サービス等に関する取引です。
● 個別信用購入あっせん(割賦販売法35条の3の10等)
商品・サービスの購入ごとに申し込みを行い、クレジットを利用する(分割払いのための立て替えをしてもらう)取引です。
● 宅地建物取引(宅建業法37条の2)
土地や建物の売買や賃貸借などを内容とする取引です。あらゆる土地建物取引がクーリングオフの対象となるわけではないのでご注意ください。宅建業者が売主で、売主の事業所外で契約を締結した場合など、要件が限られています。
● ゴルフ会員権契約(ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律12条)
ゴルフ場の会員権取得を申し込む契約です。要件が限られていますのでご注意下さい。
● 保険契約(保険業法309条)
生命保険・損害保険などへの加入を内容とする契約です。要件が限られていますのでご注意ください。
● 投資顧問契約(金融商品取引法37条の6)
投資判断についての助言を受ける内容の契約です。
● 連鎖販売取引(マルチ商法)(特定商取引法40条)
個人(Aさんとします)を販売員として勧誘し、さらに、その個人(Aさん)に販売員を勧誘させ(例えば、Aさんの友人のBさん)、販売網を連鎖的に拡大して行う取引です。商品・サービスの購入を他の人に対して販売すれば、紹介料やマージンなどを得られるという誘い文句を用いて、入会金・商品購入費・研修費などを支払わせるいかがわしい取引も散見されます。
● 業務提供誘引販売取引(特定商取引法58条)
仕事をあっせんするなどの誘い文句で誘因し、仕事に必要だとして商品を販売する取引です。いかがわしい取引も散見されます。
以上がクーリングオフが認められる取引の類型です。クーリングオフが認められるような取引は、そもそもいかがわしい取引、詐欺的な取引も散見されます。いかがわしい、詐欺的であるからこそ、クーリングオフが認められると言えるのですが、十分ご注意ください。
なお、クーリングオフをした場合、商品やサービスの返品に要する費用は、販売業者の負担となることが多いです(例えば、訪問販売であれば特定商取引法第9条第4項等)。
2、クーリングオフができない場合の例
前掲の対象取引に該当しない場合は、購入した商品・サービスをクーリングオフすることはできません。
また、対象取引に該当する場合でも、例外的にクーリングオフできないこともあるので注意が必要です。
クーリングオフができるように思われがちであるものの、実際にはクーリングオフできないケースの例を紹介します。
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(1)通信販売で購入した場合
通信販売がクーリングオフできると誤解されている方も多くいらっしゃるかもしれません。TVショッピングやインターネット通販など、通信販売で購入した商品は、クーリングオフの対象外ですのでご注意ください。
通信販売では、購入者が自ら積極的に購入申し込みを行うため、クーリングオフによる再考期間を設ける必要はないと考えられるためです。
ただし、販売業者が取引規定等に「返品不可」という特約を定めていない場合は、商品の引き渡し日から8日間は、売買契約を解除できます。この場合は、クーリングオフと同じような効果を消費者は期待出来ます(特定商取引法15条の3)。
ただしクーリングオフとは異なり、返送料等は購入者の負担となるほか(同条2項)、返品不可の特約がある場合には返品が認められません。 -
(2)クーリングオフ期間が経過した場合
クーリングオフができる期間は、対象取引の類型に応じて決まっています。
- 訪問販売
- 電話勧誘販売
- 特定継続的役務提供
- 個別信用購入あっせん
- 宅地建物取引
- ゴルフ会員権契約
- 保険契約
契約書面の受領日から8日間 - 投資顧問契約
契約書面の受領日から10日間 - 現物まがい商法
契約書面の受領日から14日間 - 連鎖販売取引(マルチ商法)
- 業務提供誘引販売取引
契約書面の受領日から20日間
上記の期間を過ぎてしまうと、クーリングオフができなくなってしまうので注意しましょう。
クーリングオフの意思表示は、業者と水掛け論にならないように、記録に残る形でされるべきです。具体的には、内容証明郵便による書面送付や、特定記録郵便、簡易書留による発送をされるべきです。 -
(3)営業用に購入した場合
営業活動の一環として商品・サービスを購入した場合、クーリングオフの対象外となりえます。
クーリングオフ制度は、あくまでも消費者の保護を目的としており、事業者が購入者となる場合にはその趣旨が妥当しないからです。 -
(4)自分の意思で店舗等に足を運んで契約した場合
店舗や営業所などに足を運んで契約を締結した場合は、クーリングオフの対象となりません。
購入者の側に契約締結のための積極的な行為が認められるため、不意打ちには当たらず、クーリングオフの趣旨が妥当しないと考えられるためです。
ただし、特定継続的役務提供・連鎖販売取引(マルチ商法)・業務提供誘引販売取引については、店舗や営業所で契約を締結した場合でもクーリングオフが認められます。 -
(5)政令指定消耗品を開封・使用した場合(使用済み分のみ)
購入した商品が、以下の政令指定消耗品に該当する場合には、使用済みの分はクーリングオフの対象外です(特定商取引法第26条第5項第1号、同法施行令第6条の4、別表第三)。
- 動物および植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る)であって、人が摂取するもの
- 不織布および幅が13センチメートル以上の織物
- コンドームおよび生理用品
- 防虫剤、殺虫剤、防臭剤および脱臭剤(医薬品を除く)
- 化粧品、毛髪用剤およびせっけん(医薬品を除く)、浴用剤、合成洗剤、洗浄剤、つや出し剤、ワックス、靴クリーム、歯ブラシ
- 履物
- 壁紙
- 医薬品
ただし、販売業者が上記の商品を購入者に使用・消費させた場合は、クーリングオフが認められます(特定商取引法第26条第5項第1号括弧書き)。
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(6)車を購入した場合
自動車を購入した場合は、クーリングオフの対象とはなりません(特定商取引法第26条第4項第1号、同法施行令第6条の2)。
自動車の購入に関する交渉は時間をかけて行われるため、購入者側に熟慮の機会が与えられていると判断されるからです。 -
(7)商品・サービスの対価が3000円未満の場合
購入した商品・サービスの対価(代金)が3000円未満の場合、クーリングオフは認められません(特定商取引法第26条第5項第3号、同法施行令第7条)。
金額が僅少であるため、クーリングオフを認めて消費者を保護する必要性が低いためです。
3、クーリングオフできない場合の対処法①|民法上の救済手段
クーリングオフができない場合でも、他の法的手段を用いて返品等を求めることができる場合があります。
そもそも、クーリングオフは、商品やサービスに全く問題が無い取引であっても、消費者が一方的に解除することが出来る法律規定です。商品やサービスに問題があった場合は民法上の救済手段をとることが出来ます。民法上の救済手段としては、契約不適合責任・錯誤取消し・詐欺取消しなどが挙げられます。
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(1)契約不適合責任の追及
契約不適合責任とは、商品・サービスの種類・品質・数量が契約内容に適合していない場合に、売り主(サービス提供者)が購入者に対して負担する法的責任です(民法第562条以下、第559条)。
購入者は、以下の4つの手段を用いて、売り主(サービス提供者)の責任を追及できます。
<契約不適合責任の追及手段>- ① 履行の追完請求(修補・代替物の引き渡しなど)(民法第562条)
- ② 代金減額請求(民法第563条)
- ③ 損害賠償請求(民法第564条、第415条第1項)
- ④ 契約解除(民法第564条、第541条、第542条)
商品・サービスの内容が、契約当時の説明と異なっている場合には、契約不適合責任を追及できないか検討しましょう。
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(2)錯誤取消し・詐欺取消し
契約内容について、購入者の側に重大な勘違い(錯誤)があった場合には、「錯誤取消し」が認められる可能性があります(民法第95条)。
<錯誤取消しの要件>- ① 以下のいずれかに該当すること
・意思表示に対応する意思を欠いていたこと
・意思表示の動機に関する認識が真実に反しており、かつその動機を相手方に表示していたこと - ② ①の錯誤の内容が、法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして、重要なものであること
また、販売業者によってだまされて商品やサービスを購入した場合、「詐欺取消し」が認められる可能性があります(民法第96条第1項)。
<詐欺取消しの要件>- ① 相手方が欺罔(ぎもう)行為(騙す行為)をしたこと
- ② ①の欺罔行為により、購入者が錯誤に陥ったこと
- ③ ②の錯誤に基づき、購入者が商品・サービスを購入したこと
- ① 以下のいずれかに該当すること
4、クーリングオフできない場合の対処法②|消費者契約法に基づく契約取消し
特定商取引法と並び、消費者保護を目的とする「消費者契約法」でも、消費者による契約取消しの規定が設けられています。
事業者(販売業者)側に以下の行為が認められる場合には、消費者は商品・サービスの購入契約を取り消すことが可能です(消費者契約法第4条第1項~第4項)。
- ① 重要事項の不実告知
- ② 不確実な事項に関する断定的判断の提供
- ③ 不利益事実の不告知
- ④ 消費者の要求に反する不退去
- ⑤ 退去しようとする消費者の妨害
- ⑥ 過量契約
- ⑦ 消費者の不安をあおる告知
- ⑧ デート商法
- ⑨ 判断力の低下の不当な利用
- ⑩ 霊感商法
- ⑪ 契約締結前にサービスを提供する行為
クーリングオフができない場合には、民法・消費者契約法に基づく救済手段を確認し、できる限り損害の回復に努めましょう。
5、まとめ
消費者が商品・サービスの購入契約を解除・返品できる「クーリングオフ」ですが、対象取引が限定されているほか、期限も設けられています。
もしクーリングオフができずに困っている場合は、弁護士にご相談のうえで、民法や消費者契約法に基づく救済手段の利用をご検討ください。
ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスでは、悪徳商法などの消費者被害に関するご相談を随時受け付けております。
購入した商品・サービスについてクーリングオフをご検討中の方、クーリングオフできずに悩んでいる方は、お早めに当事務所へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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