個人事業主の急な解雇は不当解雇になる? 解雇が違法となる条件など
- 不当解雇・退職勧奨
- 不当解雇
- 個人事業主
令和4年度に大阪府内の総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働紛争にかかる相談は2万5854件で、そのうち解雇に関する相談は3680件でした。
個人事業主は労働者と異なり、突然の契約解除となっても労働法の保護を受けられないのが原則です。したがって、原則として個人事業主が「不当解雇」を理由に相手方の責任を追及することはできません。
ただし、個人事業主が相手方の指揮命令下で働いている場合には、実質的に労働者であると評価され、契約解除が不当解雇と判断されることがあります。労働者のような働き方をしている個人事業主が、取引先から唐突に契約を解除された場合には、弁護士へご相談ください。
本記事では個人事業主の「不当解雇」について、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。
出典:「『個別労働紛争解決制度等の運用状況』(2)令和4年度の運用状況について 」(大阪労働局)
1、個人事業主とは
「個人事業主」とは、自ら独立した事業を行う個人をいいます。
取引先との間で業務委託契約などを締結し、発注してもらった仕事をこなして報酬をもらうのが、個人事業主の働き方の典型例です。なお、個人事業主は労働者ではないので、各種労働法の保護は原則として受けられません。
-
(1)業務委託と雇用の違い
個人事業主が取引先と締結する業務委託契約は、委託者と受託者が対等・独立の立場であることを前提としています。
これに対して、使用者と労働者が締結する雇用契約は、労働者が使用者の指揮命令下で働く内容の契約です。つまり使用者が支配的な立場、労働者が従属的な立場にある点が、業務委託契約とは大きく異なります。
なお、業務委託と雇用のどちらに当たるかは、契約の名称だけでなく、業務の実態に鑑みて判断されます。 -
(2)個人事業主と労働者の違い
使用者と雇用契約を締結し、使用者の指揮命令下で働く者を「労働者」といいます。
労働者は、使用者に対して弱い立場に置かれがちです。そのため、労働基準法や労働契約法などの各種労働法が適用され、労働者の保護が図られています。
これに対して個人事業主には、労働者とは異なり、各種労働法の規定が原則として適用されません。個人事業主は相手方と対等な立場で取引を行うため、労働法によって保護する必要がないためです。
2、個人事業主の「不当解雇」は認められるのか?
個人事業主が取引先から一方的に業務委託契約を解除されたとしても、それは原則として「解雇」に当たりません。
ただし、個人事業主に労働者性が認められる場合は、労働者と同様に「解雇」と評価される場合があります。労働者性が認められる個人事業主が業務委託契約を一方的に解除された場合は、不当解雇に当たる可能性が高いでしょう。
-
(1)原則|業務委託契約の解除は「解雇」ではない
「解雇」とは、使用者が一方的に雇用契約を解除することをいいます。
業務委託契約の解除は、原則として「解雇」に当たりません。したがって、不当解雇を規制する「解雇権濫用の法理」(労働契約法第16条)などは、業務委託契約の解除には適用されない点に注意が必要です。 -
(2)例外|労働者性が認められる場合は「解雇」に当たり得る
ただし例外的に、個人事業主に「労働者性」が認められる場合は、業務委託契約の解除が実質的に「解雇」であると評価されることがあります。
「労働者性」とは、契約の相手方の指揮命令下で働いていることをいいます。
個人事業主は、本来、相手方から独立した立場で業務を行います。相手方は個人事業主に対して、業務の進め方や時間配分などを具体的に指示することはできません。
しかし実際には、相手方のオフィスに常駐して従業員と同じように働くなど、相手方の指揮命令下で働いているケースもあります。このような場合には、名目上は業務委託であっても、実質的には雇用とみなされる可能性が高いです。
業務委託が実質的に雇用である場合、契約の解除は「解雇」に当たります。 -
(3)労働者性が認められる場合の契約解除は、不当解雇の可能性大
使用者による労働者の一方的な解雇は、解雇権濫用の法理によって厳しく制限されています。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効です(労働契約法第16条)。
解雇権濫用の法理は、非常に厳格に運用されています。そのため、業務委託が実質的に雇用と評価される場合には、相手方による契約の解除は不当解雇に当たり無効と判断される可能性が高いでしょう。
3、実質的に労働者である個人事業主が解雇された際にすべきこと
労働者同然の働き方をしている個人事業主が、相手方から契約を解除された(=解雇された)場合には、以下の対応を検討しましょう。
-
(1)契約内容と解雇理由を確認する
契約の解除(解雇)について反論を行うため、まずは契約内容と相手方が主張する解雇理由を確認しましょう。具体的には、契約上の解除事由と相手方が主張する解雇理由を照らし合わせて確認します。
そもそも解除事由に該当しない場合は、契約の解除が認められないことは明らかです。仮に解除事由に該当する場合でも、解雇権濫用の法理に基づく解雇無効を主張する余地があります。 -
(2)不当解雇の無効を主張し、雇用契約への切り替えを求める
相手方による契約の解除が不当解雇に当たると思われる場合は、契約の解除の無効を主張して取引の継続を求めましょう。
また、業務委託のままでは個人事業主の地位が不安定なので、雇用契約への切り替えを求めることも有力な選択肢です。
ただし、業務委託から雇用へと切り替わった場合には、服務規程にしたがうことを要求され、さらに勤務時間によって拘束されるようになるケースが多いのでご注意ください。 -
(3)未払い賃金を請求する
業務委託が実質的に雇用である場合は、労働基準法の規定にしたがって、労働時間に応じた賃金が発生します。
個人事業主として受け取った報酬が最低賃金を下回っていれば、不足額を未払い賃金として相手方に対して請求可能です。また、業務に従事した時間が長い場合には、残業代を請求できることもあります。
労働の実績に鑑みて未払い賃金が発生している場合は、不当解雇の無効等の主張と併せて、未払い賃金請求も行いましょう。 -
(4)解雇予告手当を請求する
契約の解除(解雇)を受け入れる場合でも、実質的に雇用である業務委託契約を解除する際には、使用者(相手方)は労働者(個人事業主)に対して30日以上前に契約解除を予告するか、または解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項)。
唐突に契約解除を通知されたため、30日以上の解雇予告日数が確保されていない場合には、不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として請求可能です。未払い賃金などと併せて、解雇予告手当についても支払いを請求しましょう。 -
(5)解決金の支払いについて交渉する
個人事業主に労働者性が認められ、相手方による契約の解除が不当解雇に当たる場合には、個人事業主と相手方との間の契約は存続します。
個人事業主としては、契約の解除を受け入れる条件として、相手方に対して解決金の支払いを求めることも選択肢のひとつです。納得できる金額の解決金の支払いを受けられれば、円満に取引を終了させることができますし、個人事業主にとっては生活の支えとなります。
解決金の支払い交渉については、弁護士に依頼して行うのがスムーズです。法的な根拠に基づく主張を行うことで、十分な額の解決金を得られる可能性が高まります。
4、個人事業主の契約解除(解雇)に関する主な相談先
労働者同然の働き方をしている個人事業主が、相手方から一方的に契約を解除された場合には、労働基準監督署または弁護士に相談しましょう。
-
(1)労働基準監督署
労働基準監督署は、管轄地域内の事業所について、労働基準法の順守等に関する監督を行う行政機関です。
業務委託が実質的に雇用に当たる場合は、給料の未払いや長時間労働などに関して、相手方による違法な取り扱いを労働基準監督署に申告できます。申告を受けた労働基準監督署は、相手方の事業場に対して臨検を行い、違法状態が発見されれば是正勧告などを行うことがあります。
また、労働基準監督署には「総合労働相談コーナー」が設けられており、不当解雇への対応などについても一般的なアドバイスが受けられます。
ただし、労働基準監督署はあくまでも行政機関であり、労働者(個人事業主)を代理して具体的な対応をしてくれるわけではない点にご注意ください。
参考:「全国労働基準監督署の所在案内」(厚生労働省)
参考:「総合労働相談コーナーのご案内」(厚生労働省) -
(2)弁護士
弁護士は個人事業主の代理人として、相手方との交渉や法的手続きなどの対応を代行します。不当解雇の主張や未払い賃金請求など、さまざまな方法で個人事業主の権利を守れるようにサポートいたします。
労働基準監督署とは異なり、具体的な対応を一括して任せられる点が弁護士の大きな特徴です。取引相手との間でトラブルになってしまった個人事業主の方は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
個人事業主が締結する業務委託契約の解除は、原則として解雇に当たりません。ただし、個人事業主に労働者性が認められる場合は解雇に当たり、不当解雇として無効と判断される可能性が高いでしょう。
個人事業主が労働者性を主張して不当解雇を争うためには、法的な観点からの検討と準備が必要不可欠です。労働問題の解決実績がある弁護士のサポートを受けましょう。
ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスでは、取引先とのトラブルに関する個人事業主のご相談を随時受け付けております。「労働者性」の高い働き方をしていたにもかかわらず、取引先から突然契約を解除されてしまった個人事業主の方は、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|