残業代請求の証拠となるもの、ならないものを弁護士が解説
- 残業代請求
- 残業代
- 請求
- 証拠
大阪府が公表している毎月勤労統計調査地方調査(年報)によると、令和2年の1人平均月間総実労働時間は、131.6時間であり、そのうち所定外労働時間は8.5時間でした。また、産業別でみると、所定外労働時間は、運輸業・郵便業が最も長く、宿泊業・飲食サービス業が最も短くなっています。
労働者が残業をした場合には、法律上、会社に対して残業代を請求することができます。会社に在籍中は、会社との関係悪化をおそれて残業代請求を控えていた方であっても、会社を辞めるタイミングで、これまでの残業代を請求したいと考えることも多いでしょう。
会社に対して残業代請求をするためには、それを裏付ける証拠が不可欠となりますが、どのような証拠があれば残業代請求が可能になるのでしょうか。今回は、残業代請求の証拠となるもの・ならないものについて、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。
1、残業の証拠となるもの
残業代請求をする際に証拠となり得るものとしては、以下のものが挙げられます。
-
(1)労働契約の内容がわかるもの
労働者と会社との労働契約内容によっては、通常の労働時間制ではなく、フレックスタイム制、変形労働時間制、裁量労働時間制など特殊な労働時間制がとられていることがあります。このような特殊な労働時間制がとられている場合には、残業代計算の方法も通常の計算方法とは異なります。
また、残業時間を計算するにあたっては、就業時間、基本給、残業代などに関する労働条件を確認することが必要です。
そのため、残業代請求をする場合には、労働契約内容がわかる以下のような書類が証拠となります。- 労働契約書
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 賃金規程
-
(2)給与の支払いに関する内容がわかるもの
会社に残業代を請求する場合には、あくまでも未払いの残業代を請求していくことになりますので、これまで支払われた残業代を確認する必要があります。また、残業代を計算するにあたっては、基礎賃金を算定し、基本給や各種手当の金額の確認もしなければなりません。
そのため、残業代請求をする場合には、給与の支払いに関する内容がわかる以下のような書類が必要になります。- 給与明細
- 賃金台帳の写し
-
(3)残業時間に関する内容がわかるもの
会社に対して残業代を請求するためには、労働者の側で残業をしたこと、およびその時間を証明しなければなりません。そのため、残業時間に関する内容がわかる証拠は、残業代請求をするにあたって最も重要となる証拠です。
労働時間を適切に管理している会社であれば、タイムカードなどを証拠とすることによって、残業時間を明らかにすることができます。しかし、サービス残業をしている場合には、タイムカード打刻後に残業をしていることもあり、タイムカードだけでは残業時間を証明することができないこともあるでしょう。そのような場合には、タイムカード以外の証拠によって残業したことおよび残業時間を立証していく必要があります。
残業時間を立証する証拠としては、以下のものが挙げられます。- タイムカード
- 業務日報
- パソコンのログイン・ログアウト記録
- 業務に関連するパソコンのメールの送信記録
- 入退室記録
- 交通系ICカードの記録、帰宅時のタクシーの領収書
- 日記、メモ
2、残業の証拠とならないもの
残業代請求の証拠とならないものまたはなりにくいものとしては、以下のものが挙げられます。
-
(1)継続的に記録していない日記やメモ
残業に関する日記やメモについては、残業代請求をする際の証拠にすることができますが、その前提として、継続的に日記やメモが記録されていることが前提です。タイムカードや入退室記録などは、客観的に労働時間が記録されるものですので、証拠としての価値が高く、労働者側に有利な証拠として利用することができます。
他方、日記やメモは、労働者自身が作成するものですので、労働者の主観によってどのような内容にでもすることができてしまいます。そのため、残業時間を立証する証拠とはなり得るものの、証拠価値としては単独では低いものといえます。特に、継続的に記録していない日記やメモについては、虚偽や改ざんの疑いがあるため、証拠にならない可能性があります。 -
(2)社外からもメールを送信できる場合のメールの送信記録
社内のパソコンから私的なメールアドレスに宛てて「これから退勤します」などのメールを送っていた場合には、その時間まで残業していたということを立証することができます。
しかし、社内のパソコンのアカウントに社外からアクセスすることができる場合には、残業をしていなかったとしても、メールの送信記録を作成することが可能になります。
そのため、このような場合には、メールの送信記録があったとしても証拠にすることはできません。
3、残業代請求の方法と弁護士ができること
残業代請求をする場合には、一般的に以下のような方法で行います。
-
(1)証拠の収集
残業代請求をする際には、労働者の側で残業をしたことおよびその時間を立証しなければなりません。証拠がない状態で残業代請求をしたとしても、容易には応じてくれませんので、まずは証拠を収集することが重要となります。
どのような証拠が必要になるのかについては、個々の労働者の状況によって異なってきますので、一概に判断することはできません。また、証拠には、証明力が高いものから低いものまでさまざまなものがありますので、証拠の取捨選択も重要となってきます。
弁護士に依頼をすることによって、どのような証拠が必要になるのかを適切に判断してもらうことができます。また、労働者自身では証拠収集が困難な場合には、弁護士が代理人となって会社に対して、証拠の開示を求めたり、場合によっては証拠保全の手続きをとることによって、証拠を収集することもできます。 -
(2)残業代の計算
残業代請求に関する証拠の収集ができたら、次は、証拠に基づいて残業代を計算していきます。
残業代の計算は、一般的には以下のような計算式によって計算します。残業代=1時間当たりの基礎賃金×残業時間×割増率
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月あたりの平均所定労働時間
たとえば、月給32万円、年間の勤務日数が240日、1日の所定労働時間が8時間の労働者の場合、1時間あたりの基礎賃金は、2000円になります。
32万円÷(8時間×240日÷12か月)=2000円
なお、基礎賃金を計算するときの月給には、以下の手当は含みません。- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
このように、残業代請求は、非常に複雑な計算となりますので、不慣れな方では正確に残業代を計算することができないでしょう。弁護士に依頼することによって、複雑な残業代計算もすべて弁護士が行ってくれますので、残業代計算に要する労力や時間を大幅に削減することができます。
-
(3)会社との交渉
残業代の計算ができたら、次は、会社に対して残業代を請求していきます。残業代請求の方法としては、まずは、会社と交渉し未払いの残業代を支払ってもらえるように求めていきます。
労働者自身が会社に対して残業代請求をしたとしても、まともに話を聞いてくれないこともあります。しかし、弁護士が代理人として会社と交渉を行うことによって、会社としても適当に扱うことができず、交渉段階で未払い残業代の支払いに応じてもらえる可能性が高くなります。 -
(4)労働審判
会社との交渉では未払い残業代に関する問題を解決することが難しい場合には、労働審判という手続きをとることもできます。
労働審判とは、労働者と会社との間の労働関係のトラブルを解決するための裁判所の手続きの一種です。訴訟手続きとは異なり、原則3回以内で審理が終わることになっていますので、迅速な解決を期待できる手続きであり、話し合いによる解決を基本としているため、より柔軟な解決を図ることが可能です。弁護士に依頼することによって、労働審判の申し立てから、具体的な審判期日での対応などすべてを任せることができますので、経験のない方でも安心して手続きを進めることができます。
ただし、労働審判の内容に不服がある当事者は、労働審判から2週間以内に異議の申し立てをすることによって、当該審判は効力を失い、訴訟手続きに移行することになります。その点に注意が必要です。 -
(5)訴訟
労働審判に対して異議の申し立てがあった場合または話し合いでの解決ができない場合には、未払い残業代の支払いを求める訴訟を提起することができます。
訴訟手続きは、当事者からの主張や立証に基づいて、最終的に裁判所が判決を言い渡すことによって解決を図る手続きです。訴訟の提起や具体的な期日の進行は、非常に専門的かつ複雑なものとなりますので、知識や経験のない方では適切に進めていくことが困難といえます。
そのため、訴訟手続きを利用する場合には、弁護士のサポートが不可欠となるでしょう。
4、残業代請求の際は、時効に注意
残業代請求をする際には、「時効」という期間制限がある点に注意が必要です。証拠を収集して残業代請求をすることが可能なケースであっても、時効期間が経過してしまうと、残業代請求権は消滅してしまいますので、残業代を請求することができなくなります。
残業代請求の時効期間は、従来は2年とされてしましたが、労働基準法の改正によって、5年に変更されることになりました。しかし、いきなり2年から5年に変更してしまうと、影響が大きいことから段階的に引き上げをすることとなり、当面の間は3年が時効期間です。
そのため、残業代請求の時効期間は、以下のとおりです。
- ① 令和2年3月31日までに支払われる残業代……2年
- ② 令和2年4月1日以降に支払われる残業代……3年
客観的な証拠をそろえて残業代請求をすることができる場合であっても、時効期間が経過してしまえば、残業代を請求することはできませんので、早めに行動することを心がけましょう。
5、まとめ
残業代請求をするためには、残業をしたことおよびその時間を裏付ける証拠が重要となります。証拠がなければ、残業代請求に応じてもらえないことが多いため、残業代請求をお考えの方は、ご自身の残業時間を客観的な証拠に残すとともに、その証拠を収集する必要があります。
弁護士は、証拠集めのアドバイスや、代理人として残業代請求の交渉ができます。残業代を請求したいがやり方が分からない、という方は、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|