【2024年4月】建設業の残業時間の上限規制や残業代請求の方法
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大阪府が公表している「毎月勤労統計調査報告書(年報)」によると、令和5年(2023年)の産業別総実労働時間(月平均、常用労働者数5人以上の事務所)は、建設業で164.7時間でした。調査した産業全体の平均が133.1時間なので、建設業の労働時間が比較的長いということがわかります。建設業の総実労働時間は、毎年ほぼ横ばいとなっており、長時間労働が常態化しているといえるでしょう。
建設業の残業時間の上限規制については、これまで改正労働基準法の適用が猶予されていましたが、令和6年(2024年)4月1日から月45時間・年360時間の上限規制が適用されています。これまでどおりの長時間労働は、残業時間の上限規制に違反する可能性があり、違法な残業を強いられている可能性があります。このような環境で働いている方は、職場に対して環境改善を求めるとともに、未払い残業代の請求を検討してみましょう。
今回は、建設業の残業時間の上限規制や残業代の請求方法について、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。


1、建設業の残業が多い理由
建設業で残業が多くなってしまう理由としては、以下の要因が考えられます。
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(1)工期厳守のため一人当たりの負担が多いこと
建設業では、工期を遵守することが基本となります。決められた工期までに工事を終わらせることができなければ、契約不履行とされるリスクや今後の信用問題にもつながりかねません。
このような工期厳守の考え方が基礎にあるため、残業をしてでも工期に間に合わせようとすることが多いです。特に、繁忙期になると工事が集中することで残業が発生しやすくなり、それが長時間残業の原因となっています。 -
(2)天候に左右されやすく、工期を守るために残業が増えること
建設業は、屋外での作業が多いため、天候に左右されやすい仕事といえます。工事内容によっては、悪天候では作業ができないものもあるため、休んだ分の遅れを取り戻すために、残業が発生します。
もともと工期に余裕がない状況で悪天候も重なってしまうと、さらに長時間の残業となるケースも少なくありません。 -
(3)慢性的な人手不足
建設業界では慢性的な人手不足に悩まされています。外国人材の受け入れは進んでいるものの、若年者層の労働力が増えず、建設業界で高齢化が進行し続けています。
このような慢性的な人手不足が続くと、必然的に一人当たりの負担が増えてしまうため、残業せざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。 -
(4)休日の少なさ
建設業界では週休2日制の導入が遅れており、4週4休以下で働いている建設工事現場も少なくありません。
休日が少なくなれば、その分、営業日の労働時間を増やすことになるため、長時間労働の原因の1つとなります。
2、【2024年4月】建設業の残業の上限規制|割増賃金率など
令和6年(2024年)4月から建設業にも残業時間の上限規制が適用されています。以下では、建設業の残業時間の上限規制と割増賃金率などについて説明します。
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(1)労働時間の上限
労働基準法の改正により一般の業種では、大企業が平成31年(2019年)4月から、中小企業が令和2年(2020年)4月から残業規制が適用されています。しかし建設業は、慢性的な人手不足や業界として長時間労働が常態化しているなどの理由から、すぐに働き方を変更するのが困難であったため、残業時間の上限規制の適用が除外されていました。
しかし、令和6年(2024年)4月からは、建設業においても一般の業種と同様に残業時間の上限規制が適用されているため、月45時間・年360時間が残業時間の上限となります。
ただし、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付きの労使協定(36協定)の締結・届け出をすることにより、以下の範囲内であれば上限を超えて残業させることが可能です。- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計が2~6か月平均80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6回まで
このような残業時間の上限規制に違反した場合、使用者に対して、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
なお、建設業であっても災害時の復旧・復興事業については、以下の残業時間の上限規制が適用されない点に注意が必要です。- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計が2~6か月平均80時間以内
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(2)法定割増賃金率
令和5年(2023年)4月から割増賃金率が引き上げられ、月60時間を超える時間外労働をした場合、従来の25%以上の割増賃金率ではなく、50%以上の割増賃金率が適用されます。これは、建設業にも適用されているため、残業代を請求する際には、改正後の割増賃金率によって計算するようにしましょう。
改正内容を含めた法定割増賃金率をまとめると、以下のようになります。割増賃金の発生条件 割増賃金率 時間外労働 月60時間まで 25%以上 月60時間超 50%以上 深夜労働 午後10時~翌午前5時まで 25%以上 休日労働 法定休日(深夜労働でない時間) 35%以上 時間外労働+深夜労働 時間外労働が月60時間まで 50%以上 時間外労働が月60時間超 75%以上 休日労働+深夜労働 法定休日の午後10時~翌午前5時まで 60%以上
3、働き方改革により「完全週休2日」が推進されている
建設業における休日はどのようなルールになっているのでしょうか。労働基準法の規定や国土交通省からの発表をご紹介します。
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(1)労働基準法では週1日・4週で4回以上の休日が義務|法定休日
労働基準法では、週に少なくとも1日または4週を通じて4回以上の休日を与えなければならないと定められています(労働基準法35条)。このような休日を「法定休日」といいます。
建設業で働く労働者に対しても、労働基準法の法定休日の規定は適用されるため、最低限の休日として、法定休日を与えなければ労働基準法違反となります。 -
(2)完全週休2日制が国として推奨されている
国土交通省では、建設業における週休2日の推進等の休日確保の必要性などを踏まえて、直轄工事(公共工事)で週休2日を推奨する取り組みが行われています。週休2日は義務ではありませんが、健康確保、ワーク・ライフ・バランスの改善、将来の担い手の確保といった観点から、週休2日を確保することが望ましいといえます。
4、建設業の残業時間・残業代でお悩みの方は弁護士へ相談を
建設業界に勤めていて長時間残業に悩んでいる方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)未払い残業代の有無をチェックできる
建設業は、長時間労働が常態化しているため、残業時間も長くなる傾向があります。このような職場では、高額な残業代が発生しているにもかかわらず、きちんと支払われていないケースも少なくありません。
一般の従業員の立場では、企業から支払われている残業代が適正な金額であるか判断するのは困難ですので、残業代が未払いになっていてもそのまま放置してしまっている方もいます。
しかし、未払いの賃金や残業代には3年という時効があります。
弁護士に相談をすれば、請求可能な未払い残業代が存在しているかどうかをチェックしてもらうことができるため、時効により残業代が請求できなくなる事態を可能な限り回避できるでしょう。 -
(2)証拠収集や残業代計算の適切なサポートが可能
企業に対して残業代請求をするには、その前提として、残業代に関する証拠収集と未払い残業代の計算が必要になります。
サービス残業が横行して勤怠管理が不適切なケースなど、残業代請求に必要な証拠は具体的な事案によって異なるため、適切な証拠収集をするには弁護士のサポートが不可欠です。弁護士が開示を求めることで、企業側だけが持つ証拠を手に入れることもできます。
証拠の有無によって、残業代請求が認められるかどうかが変わってくるため、まずはしっかりと証拠を集めるようにしましょう。
また、証拠を集めた後は、証拠に基づいて残業代計算が必要になりますが、残業代計算は非常に複雑です。基本的な計算式は「1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増賃金率」ですが、各項目の数値を計算するには、法令の正確な理解と知識が必要になります。弁護士に依頼すれば、細かな残業代計算もすべて任せることができ、迅速かつ正確に未払い残業代の金額を導き出すことが可能です。 -
(3)企業に対する残業代請求を任せることができる
企業に対して残業代請求をする場合、まずは企業との交渉を行うことになります。
しかし、労働者個人で交渉をしても企業が誠実に対応してくれないケースも多いため、個人での対応には限界があるといえます。
弁護士に依頼をすれば弁護士が代理人になって企業と交渉をすることができるので、企業も真摯(しんし)に対応せざるを得なくなります。交渉が決裂して労働審判や裁判に発展したときも引き続き対応を任せられる点も弁護士に依頼するメリットといえるでしょう。
お問い合わせください。
5、まとめ
建設業界は、長時間労働が慢性化している業界として知られていますが、法改正などで労働環境は全体としては改善されています。一方で自分が勤めている事業所の残業時間が36協定で定める残業規制を超えている、未払い残業代が発生しているといった場合はすぐに弁護士に相談するようにしましょう。
建設業界で働いていて残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています