残業代が基本給に含まれていると言われたら? 確認すべき労働条件

2025年07月14日
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残業代が基本給に含まれていると言われたら? 確認すべき労働条件

令和5年度、大阪府内の労働基準監督署が監督指導を行った2163事業場のうち、賃金不払い労働があったものは145事業場でした。

残業代を支払わない会社の中には「残業代は基本給に含まれている」と説明するところもあります。しかし、基本給と残業代が区別できないような場合は、労働基準法違反に当たる疑いがあります。

本記事では、残業代が基本給に含まれていることの問題点や、未払い残業代の請求方法などをベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。


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1、残業代に関する基礎知識

企業が定めた労働時間(所定労働時間)を超えて働いた場合などには、会社に対して残業代を請求できます。まずは、残業代に関する基礎知識を確認しておきましょう。

  1. (1)残業代とは

    「残業代」とは、企業との労働契約で決められた所定労働時間以外にも働いた場合に、会社に対して請求できる追加の賃金です

    残業には以下の4つの種類があり、それぞれ残業代を請求できます。

    法定内残業 所定労働時間(※1)を超え、法定労働時間(※2)を超えない残業
    ※1 所定労働時間:労働契約や就業規則で定められた労働時間
    ※2 法定労働時間:労働基準法による労働時間の上限。原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間
    時間外労働 法定労働時間を超える労働
    休日労働 法定休日(※3)に行う労働
    ※3 法定休日:労働基準法によって付与が義務付けられた休日。1週間につき1日、または4週間を通じて4日。法定休日以外の休日に行う労働は、法定内残業または時間外労働に当たります。
    深夜労働 午後10時から午前5時までの間に行われる労働
  2. (2)残業代の計算方法

    月給制の労働者については、残業代の金額は以下の式によって計算します。

    残業代=1時間当たりの基礎賃金(①)×割増率(②)×残業時間数


    ①の1時間当たりの基礎賃金を算出するには、まず「手当」を除いた1か月の総賃金を出します。

    総賃金から除外される手当
    • 残業手当(時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当)
    • 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
    • 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    さらに、「年間所定労働時間÷12か月」で月平均所得労働時間を出します。

    最後に「1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間」で1時間当たりの基礎賃金が算出できます。

    ②の割増率は、残業の種類ごとに以下の通り定められています。

    残業の種類 割増率
    法定内残業 割増なし
    時間外労働 通常の賃金に対して125%
    ※月60時間を超える部分については、通常の賃金に対して150%
    休日労働 通常の賃金に対して135%
    深夜労働
    ※午後10時から午前5時までに行われる労働
    通常の賃金に対して125%

2、「残業代が基本給に含まれる」のは合法?違法?

結論から言うと、基本給と残業代の内訳を明らかにしないまま「残業代を基本給に含む」とする行為は違法です

残業代を基本給に含めるのであれば、固定残業代制(固定残業代制度)の適用条件を満たす必要があります。

  1. (1)残業代を基本給に含めてよいケース|固定残業代制の適用条件

    固定残業代制を適用するときは、会社は労働者に対して、以下の事項を明示しなければなりません。

    ① 固定残業代を除いた基本給の額
    ② 固定残業時間と固定残業代の計算方法
    ③ 固定残業時間を超える労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨


    これらの事項を明示していない場合は、残業代を基本給に含めることはできません。

    なお、固定残業代制に関する事項を明示する方法には、主に「手当型」と「基本給組み込み型」の2種類があります。

    ① 手当型:基本給と固定残業代を別々に記載する方式です。
    (例)基本給30万円、固定残業代5万円
    ※固定残業代は、時間外労働の有無にかかわらず、25時間分の時間外手当として支給します。

    ② 基本給組み込み型:固定残業代を基本給に含める方式です。
    (例)基本給35万円(固定残業代5万円を含む)
    ※固定残業代は、時間外労働の有無にかかわらず、25時間分の時間外手当として支給します。


    「基本給組み込み型」は、内訳の金額を明示することによって、残業代を基本給に含めることが可能です。

  2. (2)基本給と残業代が区別できない場合は違法

    固定残業代制によって残業代を基本給に含める場合は、「固定残業代を除いた基本給の額」と「固定残業時間と固定残業代の計算方法」を労働者に明示しなければなりません

    以下の例のように、基本給と残業代が区別できず、残業代がいくらなのか明らかでない場合は違法とみなされます。

    (例)基本給30万円(残業代を含む)
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3、未払い残業代の請求方法

残業代が基本給に含まれているのに、固定残業代制に関する事項が明示されていない場合は、未払い残業代が発生している可能性が高いです。

以下の方法によって、会社に対して未払い残業代を請求しましょう。

  1. (1)残業の証拠を確保する

    まずは、実際に残業したことを示す証拠を確保しましょう。

    未払い残業代請求に役立つ証拠としては、以下の例が挙げられます。有力な客観的証拠を確保できれば、未払い残業代請求が成功する可能性が高まります。

    • タイムカード
    • 勤怠管理システムの記録
    • 上司の承認印がある業務日報など
    • オフィスの入退館記録
    • 会社システムへのアクセス記録
  2. (2)未払い残業代の額を計算する

    残業の証拠を確保したら、実際の残業時間を集計したうえで、前掲の方法によって残業代の額を計算しましょう。

    本来の残業代の額から、すでに支払われている残業代の額を引いた金額が、未払い残業代として請求できる金額です。正しい算出が難しい場合は、労働問題の実績が豊富な弁護士に相談することをおすすめします

  3. (3)会社と交渉する

    未払い残業代の計算が済んだら、その金額を会社に対して支払うよう求めます。

    在職中の場合は、経営者や人事担当者などに対して、未払い残業代を請求する旨を伝えましょう。良い反応が得られない場合や、残業代請求権の時効(3年間)が迫っている場合は、内容証明郵便で請求書を送付することも考えられます。

    すでに離職している場合は、最初から内容証明郵便で請求書を送付するのが一般的です。

    上記の方法で請求を行った後、会社から話し合いたい旨の提案があれば、それに応じて交渉を始めましょう。会社との間で合意が得られたら、和解合意書を締結したうえで、その内容に従って未払い残業代の支払いを受けます。

  4. (4)労働審判を申し立てる

    会社との交渉がまとまらないときは、裁判所に労働審判を申し立てることを検討しましょう。

    労働審判は、労使紛争を解決するための法的手続きです。裁判官1名および労働審判員2名が労使の間に入り、調停(合意)または労働審判によって解決を図ります。

    訴訟とは異なり、労働審判は非公開で行われます。審理が原則として3回以内で終結するため、迅速な解決が期待できるのが労働審判の特徴です。ただし、労働審判に対して異議が申し立てられたときは、自動的に訴訟へ移行します。

  5. (5)訴訟を提起する

    未払い残業代は、訴訟を通じて請求することもできます。
    労働審判に対して異議が申し立てられると自動的に訴訟へ移行するほか、労働審判を経ずに訴訟を提起することも可能です。

    訴訟は、裁判所の公開法廷で行われる紛争解決手続きです。
    労働者側が残業代請求権の存在を立証すれば、裁判所が会社に対して、未払い残業代の支払いを命じる判決を言い渡します。

    労働者側が勝訴するためには、残業の証拠をきちんと確保して提出することが大切です。訴訟では法的な知見や経験が重要となるので、弁護士に代理人を依頼することをおすすめします。

4、未払い残業代請求に関する主な相談先と、弁護士ができること

未払い残業代請求に関する主な相談先としては、労働基準監督署と弁護士が挙げられます

労働基準監督署は、労働基準法などの遵守状況を監督する行政官庁です。残業代の未払いなど、労働基準法違反を犯している事業場に対して、立ち入り調査や是正勧告などを行います。

ただし労働基準監督署は、労働者の代理人として未払い残業代を回収することはできません。未払い残業代に関する示談交渉・労働審判・訴訟などの代行は、労働問題の解決実績がある弁護士に相談しましょう。

弁護士は、未払い残業代請求に必要な手続きを全面的に代行いたします。労働者の味方として、会社に対して法的な根拠に基づく請求を行い、最大限の未払い残業代の回収を目指します。

残業に関する証拠の収集や、残業代計算の方法などについても、弁護士にご相談いただければアドバイスいたします。未払い残業代が発生しているのではないかと不安に感じている方は、まずは当事務所の弁護士にご相談ください。

5、まとめ

会社から「基本給は残業代込み」という説明を受けている場合は、固定残業代制の適用条件を満たしているかどうか確認しましょう。

必要な事項の明示がされていないなら、未払い残業代が発生している可能性もあります。早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、未払い残業代請求に関するご相談を随時受け付けております。適切に残業代が支払われていないと感じている方は、まずはベリーベスト法律事務所へご相談ください。

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