【後編】相続で慌てないための時効や期限の知識を弁護士が解説
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長年連絡もとっていなかった親族から、あなたが相続人になっているという知らせが届いたら場合、どうしたらよいのでしょうか。
この場合、事情がよく分からないまま相続人となれば、借金や保証人の地位を引き継いだり、築年数の古い不動産を相続して多額の解体費用を請求されたりするなど、トラブルに巻き込まれる可能性もあるかもしれません。また、多額の相続財産があるにもかかわらず、相続財産はわずかしかないと言ってだまされ、不利な遺産分割に合意させられるということもあり得ます。
平成30年は大阪府内で約8万9400人の方が亡くなっています。
相続は、あまり考えたくないことかもしれませんが、いつ降りかかってきてもおかしくない問題です。
この記事では、「知らなかった」では済まされない、相続に関するルールや期限、時効について、弁護士が解説します。
3、1年以内に到来する時効や期限について
相続では、相続開始の時から比較的短期間の間に判断を迫られる制度がいろいろあります。そこで、相続の開始または自分のために相続の開始を知った時から1年以内になすべき権利行使や制度について解説します。
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(1)相続放棄・限定承認の期限(3か月)
相続人となった場合、相続を受けるか否かについて、3通りの選択肢があります。
- ①被相続人の権利・義務のすべてを相続する(単純承認)
- ②被相続人の権利・義務のすべてを相続しない(相続放棄)
- ③相続人全員の合意により、財産で債務を清算し、残った財産のみ相続する(限定承認)
相続放棄や限定承認をする場合は、いずれも家庭裁判所で申述の手続をとる必要があります。
これらの申述は、自分のために相続の開始を知った時から3か月以内に行わなければなりません(民法938条、915条)。
なお、3か月以内に申述するか否か決めることが困難な場合は、期限までに家庭裁判所に期間の伸長の申し立てをすることも可能です。 -
(2)被相続人の準確定申告・納付の期限(4か月)
被相続人に事業所得などがあり、所得税などの確定申告をしていない場合は、相続人が代わって申告する必要があります(準確定申告)。
そして、準確定申告と納税は、自分のために相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に行わなければなりません。(所得税法124条)。 -
(3)特別寄与料請求の期限(6か月)
令和元年7月1日に施行された改正民法により、相続人ではない親族が被相続人の療養看護などに尽くした場合、相続人に対して金銭の請求ができることになりました。
たとえば、被相続人の長男の妻が、親身に介護をしていたとしても、長男が先に亡くなっている場合は、遺産を1円も受け取ることができず、不公平といわれていました。
法改正により、亡き長男の妻が、相続人に対して特別寄与料を請求できることになったのです。
相続人との話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所の調停・審判手続により強制的に解決を図ることができます。
家庭裁判所へ申し立てをする期限は、特別寄与者(上記の例では長男の妻)が、相続の開始および相続人を知った時から6か月以内とされています。また、相続の開始の時から1年が経過すると、この申し立てはできなくなりますので注意が必要です(民法1050条)。 -
(4)相続税の申告・納付の期限(10か月)
相続税の申告や納税が必要な場合は、自己のために相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません(相続税法27条1項、33条)。
期限までに申告や納税をしなかった場合は、加算税や延滞税が課税されることもあります。
なお、期限までの納付が難しい場合は、数年に分けて納税する方法(延納)や、相続財産そのものを納める方法(物納)を申請することも可能です。
これらの申請も申告の期限までに行う必要があります。 -
(5)遺留分侵害額請求の時効(1年)
自分の財産を誰かに譲ったり、誰に相続させたりすることは、基本的には自由に決めることができます。
しかし、遺産相続には残された遺族の生活を保障するという側面もあるため、相続人は最低限度の相続財産を受け取る権利(遺留分)として、遺留分侵害額請求権が認められています。
かつては遺留分減殺請求権といわれていましたが、令和元年7月1日に施行された改正民法により、遺留分侵害額請求権と呼び名が変わり、制度も若干変わりました。すなわち、旧来の制度である遺留分減殺請求権は、遺留分を侵害する財産の「現物返還」を求めるところ、新しい制度である遺留分侵害額請求権は、遺留分を侵害する財産の価額に相当する金銭での支払いを求めるものと変わりました。
なお、遺留分が認められるのは、相続人のうち配偶者、子ども(孫)、親(直系尊属)に限られ、被相続人の兄弟姉妹には認められません。
遺留分侵害額請求は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年で時効となります。また、遺留分の侵害を知らなくても、相続の開始から10年が経過した場合も、権利の行使ができなくなります。
4、10年以内に到来する時効・期限
続いて、相続の開始または自分のために相続の開始を知った時から10年以内に到来する時効や期限について解説します。
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(1)相続回復請求の時効(5年)
本来は相続人ではない人が相続人として相続を受けた場合、相続権を侵害された人は、相続回復請求をすることができます。
一般的にはあまり起こり得ない事態ですが、被相続人との無効な婚姻や養子縁組によって相続人となった人に対して請求することが考えられます。また、共同相続が発生した場合で、一方の共同相続人が他方の共同相続人の相続分を侵害するような相続財産の取得を主張して譲らない場合も相続回復請求権の権利行使の対象となります。
相続回復請求は、相続権の侵害を知った時から5年で時効となります。また、相続権の侵害を知らなくても、相続の開始から20年が経過した場合は、権利の行使ができなくなります。 -
(2)相続税・贈与税の時効(5年~7年)
相続税などの税金も時効に似た制度があり、申告期限が過ぎて納税しないまま5年(贈与税は6年)が経過すると、納税する義務がなくなります(国税通則法72条、相続税法36条1項)。
ただし、故意に申告しなかったような悪質なケースでは、いずれも7年となります(国税通則法73条3項、相続税法36条3項)。
納税した後でも、税務調査を受ける可能性があるため、この期間は申告した際の資料などを保管しておく必要があるでしょう。
5、遺産分割請求権には時効や期限がない
意外に思われるかもしれませんが、相続の開始から遺産分割を行うまでの期限や時効を定めた規定はありません。
遺産分割は、分割をしなくても不都合がないという理由や、意見の対立によって遺産分割協議ができないという理由で、放置されるケースもなくはありません。
そのため、所有者不明の不動産の増加が問題となっています。
遺産分割がされないまま、相続人が亡くなってさらに相続が繰り返された結果、所有者の特定が困難な不動産が点在しており、国土の有効活用を妨げる原因として問題視されているのです。こうした問題を受け、政府は遺産分割に期限を設けるなどの案を検討しています。
6、相続人になった場合に弁護士に相談するメリット
この章では、ご自身が相続人となった場合に、弁護士のサポートを受けるメリットについてご説明します。
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(1)法的知識の不安から解放される
相続に限らず、民事上の権利関係の調整は、法律に従って適切に行動しなければ、得られるはずの利益が得られなかったり、逆に不利益を被ったりすることもあります。
さらに相続の場合は、短い期間内に法律的な判断を迫られることや、家庭裁判所で法的な手続きを行う必要があることも少なくありません。
相続問題の経験が豊富な弁護士へ相談すれば、法的知識や時効の管理に不安を感じることもなくなるでしょう。 -
(2)感情的対立を回避できる
親族間の関係が円満であるとは限らず、お金の話が絡むことで、感情的対立へ発展することも少なくありません。
遺産分割協議へ参加することもおっくうになりがちですが、弁護士のサポートがあれば、ご自身の権利を見失うことなく、理性的に協議に望む助けになるでしょう。 -
(3)税務、不動産登記など他分野の専門家との連携が可能
遺産を受け取ったとしても、納税や、不動産登記の名義変更などを行わなければなりません。
事後に「こんなはずじゃなかった」ということにならないよう、遺産分割協議の段階で税理士などの助言が受けられると心強いものです。
ベリーベスト法律事務所の弁護士は、遺産分割の後に生じる問題についても熟知しており、税理士などと連携してサポートすることが可能です。
7、まとめ
相続は生涯で何度も経験することではなく、専門家のサポートがなければ対処が難しいと感じられたのではないでしょうか。
ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスでは、相続問題の経験が豊富な弁護士に加えて、税理士や司法書士とチームになってサポートするワンストップサービスを提供しています。
相続について不安があるという方は、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています