労働審判と訴訟の違いは何? 会社とのトラブル解決方法とは
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大阪労働局の令和元年度の統計年報によると、管轄内の総合労働相談コーナーなどには、年間約13万件もの相談が寄せられていたことがわかります。
労働者が会社とトラブルになったときには、このような行政の相談窓口を利用するほか、「労働審判」や「訴訟」で解決を図る方法があります。
「労働審判」と「訴訟」は、どちらも裁判所の手続きになりますが、どのような流れで進められ、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
本コラムでは、「労働審判」と「訴訟」の手続きの流れや違いについて、ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士がわかりやすく解説していきます。
1、労働審判制度とは
まず労働審判制度について、ご説明していきます。
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(1)概要と特色
労働審判は、労働者個人と事業主の間に生じる労働関係のトラブルについて、迅速に解決するためにある手続きです。
労働審判の特色としては、次の点があげられます。
● 労働関係の専門家が関与する
労働審判事件は、労働審判官(裁判官)と労働審判員(労働審判法にもとづく専門家)が構成する「労働審判委員会」がトラブルの解決にあたります。労働審判員は、労働関係に詳しい知識や豊富な経験を有する専門家であり、このような専門家が関与する手続きであることは大きな特色といえます。
● いきなり審判を行うことはできない。まずは会社との交渉が必要。
労働者と会社の間でトラブルがあった場合、すぐに審判をすることはできません。審判をするためには、当事者同士で話し合ったり、行政に訴えたりしたが、解決ができず、裁判所に間に入ってもらわなければならないと思うに至った経緯を裁判所に伝えなければならないからです。
● 手続きが迅速である
労働審判の審理は、原則として3回以内の期日で終了することになっています。申し立てから3か月以内に終了した事件は7割を占めるとされており、手続きが迅速である点も特色といえます。
● ケースの実情にそって柔軟に解決できる
労働審判手続では、まず労働者側と事業者側の双方の話し合いによる調停で解決を試みます。そして話し合いによる解決ができないケースでは、労働審判を行います。このように、それぞれのケースに応じ柔軟に解決を図ることができることも特色です。
● 費用が裁判手続きよりも安くなる傾向がある
裁判所に納める費用に限って言えば、通常の裁判よりも審判手続きの方が低額に抑えることができます。
弁護士に依頼した場合の費用については、ケースによりさまざまで一概にはいくらとはいえませんので、まずはご相談ください。かかる費用をお見積もりいたします。
● 審判が効力を失い訴訟に移行することもある
労働審判が行われたときでも、当事者が異議申し立てをすれば、審判の効力が失われます。そして通常の訴訟手続きに移行する点も労働審判の特色になります。 -
(2)労働審判手続きの流れ
労働審判手続きは、次のような流れで進められます。
① 申し立て
労働審判は、地方裁判所に申立書などを提出して行います。
② 期日指定・呼び出し
申し立てがなされると、審理の日(原則として申立時より40日以内)が指定されます。相手方には、申立書の写しと期日呼出状などが送付されます。
③ 答弁書などの提出
相手方は、定められた日までに答弁書などを裁判所に提出する必要があります。
④ 審理
審理当日には、労働審判委員会が、当事者双方の主張を聞き、争いになっている点を整理していきます。審理は原則として3回以内の期日で行われ、その間当事者の話し合いで合意できれば調停成立となり終了します。
⑤ 労働審判
当事者双方の話し合いがまとまらなければ、労働審判委員会が、それまでの経過をふまえてケースに応じた判断(審判)を行います。審判から2週間以内に当事者から異議申し立てがなされたときには審判の効力は失われ訴訟に移行しますが、異議申し立てがなければ審判の内容が確定することになります。
2、労働訴訟制度とは
訴訟は、いわゆる裁判のことです。労働関係についての訴訟は、労働訴訟と呼ばれることもあります。
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(1)概要と特色
訴訟は、最終的に裁判官の判決で問題の解決を図る手続きです。
労働訴訟の特色としては、次のような点があげられるでしょう。
① 請求金額によって裁判所が異なる
訴訟を提起する裁判所は、請求金額によって異なります。140万円以下であれば簡易裁判所に提起し、140万円を超えるときには地方裁判所に提起することになります。
② 手続きに時間がかかる
訴訟には期日の回数制限もないため、終了するまで長期間を要することも少なくありません。しかしその分、複雑な内容のトラブルなどを扱うことができます。
③ 最終的には判決で解決をはかる
訴訟では、当事者間に和解が成立しなければ、最終的には裁判官が言い渡す判決によって解決を図ることになります。
④ 控訴や上告をすることができる
第一審の判決に不服がある場合には、控訴や上告を申し立てて高等裁判所や最高裁判所などで判決を得ることができます。 -
(2)訴訟手続きの流れ
訴訟手続きは、主に次のような流れで進められます。
① 訴えの提起
「訴状」を作成して裁判所に提出する方法によって、訴えを提起します。
② 期日指定・呼び出し
裁判所に訴状が受理されると、第1回口頭弁論期日が指定されます。訴えの相手方(被告)にも通知がなされます。
③ 答弁書などの提出
被告は、訴えに対する認否や反論などを記載した答弁書を裁判所に提出します。
④ 口頭弁論期日
訴状と答弁書に記載された内容が陳述される第1回口頭弁論が終わると、第2回、第3回と口頭弁論が続いていき、そのなかで当事者双方が主張や立証を行っていきます。
⑤ 当事者・証人尋問
当事者や証人に対する尋問が行われることもあります。
⑥ 判決
弁論が終結すれば、裁判官は、判決を言い渡します。判決に対して不服があれば、原告・被告は控訴・上告をすることができます。
3、労働審判と訴訟では何が違う?
労働審判と訴訟とでは、主に次のような点に大きな違いがあります。
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(1)公開か非公開かの違い
労働審判は非公開で行われる手続きであるのに対して、訴訟は公開で行われる手続きです。
つまり訴訟で解決を図るときには、周囲に訴訟の内容を知られる可能性があります。 -
(2)取り扱う労働紛争の内容の違い
労働紛争は、労働者個人と事業主の紛争である個別的労働紛争のほかに、労働組合などの集団と事業主との紛争である集団的労働紛争があります。
訴訟では、個別的労働紛争だけでなく集団的労働も取り扱うことができます。しかし労働審判では集団的労働事件の取り扱いはできず、個別労働紛争のみが対象になります。 -
(3)かかる時間の違い
労働審判は、迅速に労働問題を解決するための手続きになります。一方訴訟では、期日の回数制限もないため、内容によっては、判決が出るまで長期に及ぶことも珍しくありません。
労働審判または訴訟を検討する場合には、訴訟は長期に及ぶ可能性があることを理解しておくとよいでしょう。
4、労働審判や訴訟のためにどんな準備が必要?
では労働審判の申し立てや訴訟の提起を行う前に、どのような準備をしておく必要があるのでしょうか。
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(1)証拠の収集
裁判所は、当事者ではないので、証拠がなければ判断することができません。そのため労働審判や訴訟では、主張を裏付ける証拠を提出することが重要になります。
証拠は時間が経過すると収集が難しくなるケースもあるので、事前に、証拠になりそう材料をできるだけ多く収集しておくことが大切です。 -
(2)どのような手続きが適しているか判断する
今回は労働審判と訴訟を取り上げましたが、それ以外にも少額訴訟手続きや民事調停を利用して解決を図る方法などもあります。ご自身の労働問題の解決を図るためには、どのような手続きが適切なのかを判断して選択することも重要です。
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(3)弁護士に相談
労働審判は迅速に問題を解決するための手続きなので、申し立ての段階から的確な主張や立証をすることが求められます。訴訟でも、適切な時期に適切な証拠を提出することが求められます。
しかし通常どのような主張をして、どのような証拠を提出すれば効果的なのかを判断することは、当事者では難しいものでしょう。
そういった場合には、労働審判の申し立てや訴訟の提起の前に、早期から弁護士に相談しておくとよいでしょう。弁護士は、「どのような手続きを選択した方がよいか」、「どのような証拠を収集しておく方がよいのか」などのアドバイスをすることができます。
そして審判や訴訟の場でも、的確な主張と立証を行うこともできます。
また弁護士がサポートできるのは、裁判所が関与する手続きだけではありません。弁護士は、ご相談者の代理人として、会社と直接交渉を行い話し合いで解決できるようにサポートすることもできます。
5、まとめ
本コラムでは、「労働審判」と「訴訟」の手続きの流れや違いについて、解説していきました。
労働審判と訴訟では、結論が出るまでの時間が大きく違う可能性があるなどの相違点があります。
ご自身のケースについて、労働審判と訴訟のどちらが適しているかは、違いに着目するとともに弁護士などの専門家に相談して判断することがおすすめです。
弁護士に相談した場合には、根拠を示して的確な主張を裁判所に対して行うので、有利な結論が得られる可能性が高くなります。
ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士は、ご相談者とともに労働問題を最善の形で解決できるように全力でサポートしています。
おひとりで悩むことなく、ぜひお気軽にご相談ください。
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