退職することを上司が口止め! 引き継ぎに支障が出たらどうすべきか

2024年09月18日
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退職することを上司が口止め! 引き継ぎに支障が出たらどうすべきか

令和4年度に大阪府内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は15万1778件でした。中には退職時のトラブルもあったと考えられます。たとえば、上司に退職したいと申し出たところ、「ぎりぎりになるまで他の人には言うな」などと口止めされるケースも含まれているかもしれません。

退職を伝えるタイミングは、上司の指示には従うことが望ましいですが、あまりに伝えるのが遅くなると引き継ぎに支障が出ることもあります。必要に応じて弁護士に相談しながら、スムーズに退職するための方法を模索しましょう。

本記事では、退職を申し出たところ上司に口止めされた場合の対処法や、退職トラブルについて弁護士に相談すべきケースなどをベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスの弁護士が解説します。


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1、上司が退職を口止めする理由

退職が決まった労働者(従業員・社員)に対して、上司が退職する旨の情報を口外しないように指示するのは、主に以下の理由による場合が多いでしょう。



  1. (1)業務上の混乱の防止

    退職予定者が業務上の重要な役割を担っている場合には、退職を伝えることにより、同じ業務に携わっている他の労働者の間で混乱が生じることが懸念されます。

    円滑に業務を運営するため、重要な役割を担う労働者の退職は、混乱が生じにくいタイミングで伝えたいと考える上司が多いです。

  2. (2)連鎖的な退職の防止

    企業の労働環境が劣悪であるなど、労働者の退職につながる不安要素が存在する状況では、一人の労働者の退職が他の労働者にも波及し、連鎖的な退職を招くおそれがあります。

    この場合、他の労働者の連鎖的を避けるため、上司は部下の退職を伝えるタイミングを調整したいと考えるでしょう。

2、上司に退職を口止めされた場合、従う義務はあるのか?

上司に退職を口止めされた場合において、口止めの指示に従う義務があるかどうかは、その指示が業務命令として相当であるか否かが判断基準になります。

退職を口止めすることは、業務への影響や他の労働者の混乱を最小限に抑えるため、必要かつ合理的な範囲内であれば、業務命令として有効と考えられます。この場合、退職の旨をみだりに口外すると業務命令違反となり、懲戒処分等の対象となるおそれがあります。

その一方で、業務上の必要性または合理性がないにもかかわらず、退職する旨について過剰に口止めした場合には、業務命令としての有効性が否定されると考えられます。

たとえば、退職日の直前になっても口止めを継続し、業務の引き継ぎに支障が出るようなケースでは、口止めが業務命令として無効と判断される可能性が高いでしょう。

3、退職の口止めによって引き継ぎに支障が出そうな場合の対処法

上司の口止めによって退職を伝える時期が遅れると、後任者への業務の引き継ぎに支障が生じる場合があります。

もし退職の口止めによって業務の引き継ぎに支障が出そうな場合には、以下の対応によって解決策を模索しましょう。



  1. (1)引き継ぎについて上司に相談する|メール等で記録を残すべき

    まずは、同僚に退職を伝える時期がこれ以上遅れると、引き継ぎに悪影響が生じることを上司に伝え、口止めをやめるように説得しましょう。引き継ぎの目途が立たないことを上司が正しく理解すれば、口止めを撤回する可能性があります。

    なお、仮に引き継ぎがうまくいかなかった場合には、後で会社側から引き継ぎの義務を怠ったと言いがかりを付けられるおそれがあります。会社からの責任追及を回避するため、引き継ぎについて上司に相談するときは、その内容を後からメールでも送信するなどして、記録を残しておくのがよいでしょう。

  2. (2)伝達先を絞って退職の旨を伝える

    上司がかたくなに退職の口止めを継続する場合において、業務の引き継ぎを退職までに間に合わせるためには、退職の旨をある程度周囲に知らせた上で、早期に引き継ぎへ着手するほかありません。

    後任者となることが事実上決まっている人や、信頼できる人に絞って退職の旨を伝え、少しずつ引き継ぎを行いましょう。

    その際、口止めを続ける上司に対して黙っているのではなく、「引き継ぎに必要なので、○○さんと○○さんには退職の旨を伝えます」と伝えておきましょう

4、退職トラブルについて弁護士に相談すべきケースの例

労働者が退職しようとする際、会社との間でトラブルになるケースはよくあります。

特に以下のような退職トラブルに巻き込まれた場合は、対処法について弁護士に相談することをおすすめします。



  1. (1)退職したら損害賠償を請求すると脅されている

    退職によって会社に生じる損害の賠償を請求すると脅し、無理やり退職を阻止しようとする会社があるようです。

    しかし、退職することは民法や労働基準法で認められた労働者の権利です。退職によって会社に何らかの損害が生じるとしても、特段の事情がない限り、労働者はその損害を賠償する責任を負いません。

    したがって、「退職したら損害賠償を請求する」という会社の主張は不合理です。

    会社が損害賠償請求などを掲げて、不当な脅しにより退職を思いとどまらせようとしてくる場合は、弁護士に相談しましょう。圧力をかけてくる会社への対応を弁護士に委ねることで、精神的な負担が軽減されます。

  2. (2)数か月前に通知しなければ退職できないと言われた

    就業規則などによって、労働者が退職する際には数か月前に通知することを義務付けている会社もあります。

    しかし民法上は、退職通知から2週間が経過すれば退職できることになっています(民法第627条第1項)。民法の規定に比べて、さらに長い通知期間を定めた就業規則は、法的な有効性について疑わしいといえるでしょう。

    転職のスケジュールなどとの関係で、数か月前に退職を通知することが困難なケースもあります。その場合は、会社が定めるルールにかかわらず、2週間前の通知によって退職できる可能性があります。弁護士に相談して、どのような対応をとるべきかについてアドバイスを受けることをおすすめします。

  3. (3)会社都合で退職したのに、自己都合退職になっていた

    整理解雇された場合や、退職勧奨に応じて退職する場合は、会社都合退職として取り扱われるべきです。しかしこれらのケースにおいて、自己都合退職として取り扱われるケースもまれに見受けられます。

    会社都合退職と自己都合退職の区別が重要なのは、雇用保険の基本手当の受給タイミングが変わるからです。会社都合退職であれば、退職者は申請の7日後から基本手当を受給できますが、自己都合退職の場合はさらに2か月が経過しないと受給できません。

    会社が自己都合退職であると主張していても、ハローワークに事情を説明すれば、会社都合退職として基本手当を支給してもらえる場合があります。

    しかし、事情説明の手間がかかるほか、必ずしも会社都合退職として取り扱ってもらえるとは限りません。やはり、会社都合退職である旨を会社に言明してもらうことが望ましいでしょう。

    また退職金規程においては、自己都合退職の退職金は、会社都合退職に比べて低く抑えられることがあります。この場合、本来は会社都合退職なのに自己都合退職として取り扱われると、受給できる退職金が減ってしまいます。

    事実に反して、会社都合退職のはずなのに自己都合退職として取り扱われてしまった場合は、弁護士に相談して是正を求めましょう

  4. (4)退職時点で未払い残業代が生じている

    在職中にサービス残業を強いられていた場合には、退職後に未払い残業代を請求しましょう。残業代請求権の発生から3年以内であれば、会社に対して未払い残業代を請求できます。

    未払い残業代の請求に当たっては、残業時間を漏れなく集計した上で、残業の証拠を確保することが大切です。また、労働基準法のルールに従って、正しく残業代を計算する必要があります。

    弁護士に相談すれば、残業時間の集計・残業の証拠収集・残業代の計算などについて、幅広くサポートを受けられます。実際の残業代請求に当たっては、協議・労働審判・訴訟などの対応を弁護士に一任できます。

    退職後に未払い残業代を請求したい場合は、弁護士に対応を依頼しましょう。

5、まとめ

上司による退職の口止めは、業務命令として必要かつ合理的な範囲内であれば従うべきでしょう。これに対して、退職直前まで口止めされて引き継ぎに支障が出る場合には、口止めの指示は業務命令として無効の可能性が高いといえます。必要に応じて弁護士に相談し、対応についてアドバイスを求めましょう。

ベリーベスト法律事務所 東大阪布施オフィスでは、退職トラブルに関する労働者のご相談を随時受け付けております。会社の執拗な引き留めに遭っているなど、退職に関して会社とトラブルになっているなどのケースで、労働問題についての知見が豊富な弁護士が解決までサポートします。

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